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隣のクラスの白石くんはとっても変だ。
テニス部員と話をしているといきなり目の前に現れるし、その上話をめちゃくちゃにして去っていくし、休み時間になる度に目の端にいるし、登下校中必ず反対の歩道にいる。この前の体育の時間も、フォークダンスのペアの男子が黒岩くんから白石くんに変わっていた。流石に怖くなって、謙也やユウジに相談したら、ご愁傷様やと言われ深々と拝礼された。
そんな恐怖の日々のとある日、私は日直の為早めに家を出た。


「おはようさん、てん」


玄関を開けてすぐに見えたのはあの白石くんで、私は一度ドアを閉めた。これはきっと夢なんだ。私早起きしたのに二度寝なんかしちゃって、このおっちょこちょいさん。とかなんとか考えながら、もう一度ドアを開けると、やっぱり変わらず立っていたのは白石くんだった。


「今日、日直やろ?朝まだ暗いし危ないやろから迎えに来てやったで」


なんで若干上からなんだろう。というかなんで隣のクラスなのに私が日直なのを知っているんだろう。やだもう怖い。学校休みたい。そんな気持ちをくみ取ったのか知らないが、がっしりと手を握られてしまい、もう逃げ場はどこにもなかった。なんや恋人さんみたいやな、なんて嬉しそうに笑う白石くんに全力でひいた。やっぱり怖いよこの人。なんなのこの人。


『し、白石くん、そろそろ、手を……』
「ん?あ、ああ、そんなん遠慮せんでもええって」
『遠慮って何に遠慮すればいいんだろう』
「俺と手繋ぎたかったんやろう?そんなんずっとわかっとったわ」
『え、いや、あの』
「あ、それと、その白石くんってやつ。俺とてんの仲やのにちょっとよそよそしすぎひん?」
『白石くんと私の仲も何も、私たちそんなに話したことないよね』
「てんはほんっまに照れ屋さんやなぁ!」


どうしよう。会話が成り立たないよ。いつもおかしいおかしいって思ってたけど、今日こうやって初めて一対一で話すともうわけわからなさがひどいよ。みんなはどうやってこの人と会話してるんだろう。白石くんは、学校につくと成立しない会話をそのままに、朝練行ってくるでハニーと言い残してさわやかに去っていった。
誰が君のハニーや。


昼休みに、放送委員の仕事を終えてたまたま通りかかった謙也と、小春ちゃんを探して私の教室に来たユウジを捕まえて、今朝の出来事を全部話した。二人は聞き終えるとお互い顔を見合わせて笑った。何がおかしいのやら。私は怖いのに。


『白石くんはあれでみんなとの会話成り立ってるの?』
「成り立たん方がおかしいやろ人間的に」
「せや、全然俺らとは普通やぞ?変っちゅーたら、あの『んんー絶頂!』ってやつぐらいやんな」
「ああ、あれは俺でもめちゃくちゃひいたわ。でも会話成り立たんことはないな……てか一氏今のめっちゃ似てんな」
「せやろ」
「も一回やって」
「『んんー絶頂!』」
「やばいあかんわ、似すぎや似すぎ!」
『ちょっと!話変わってるから!』
「あ、すまん。似すぎやからつい」
『もう!』
「梓月だけちゃうん?」
「せやなぁ……他の女子に話よる時も普通やで」
「まぁ、あいつ梓月のこと好きやしな」


ユウジが私の背中をばんばん叩きながら言った言葉に思わずぽかんとしてしまった。
え、誰が?白石くんが?誰を?私を?好き?白石くんも一言もそんなこと言ってなかったし、そんなバカなことがあるわけないじゃない。


「せやせや。最近どうしようどうしよう言うて、女々しくてめっちゃきもいねん、白石」
「なんや顔赤らめた思たら絶対目線の先に梓月おるもんな」
「そん時の乙女な顔ったらないわ!爆笑しすぎて腹捩れそうになるっちゅー話や!」
「あれは傑作やんな!」
「あの財前ですら目に涙浮かべて笑てんねん」
「でも、なんでそんなヤツがええんか知らんが小春がよう白石にかまいよってめっちゃ腹立つ……はっ!まさか小春また白石ん所にっ!小春うううう小春うううううう!」
「お前らそんなとこで何楽しそうに話とんねん」
「うわ、噂をすればなんとやら」


誰がきもいって?なんて言って突然目の前に現れた白石くんは謙也の頭をはたいた。そして、私と目が合うとにへらと笑って手を振った。


「ああ、てん愛しとるで」
「ほらな」


そんなバカな。
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