恋は邪魔物?
『やっぱり諦めるべきかな……』
手に持った真っ白な封筒を見つめ、私は、息を吐いた。
昨晩少ない語彙で自分の想いを綴ったこの手紙。
勉強そっちのけで一生懸命書いていたのだけれど。
これを渡したら、逆に受験生としてどうなのか、とか怒られてしまいそうだ。
ホント、なんでこんな大変な時に恋だなんて……恋なんて邪魔なだけなのかもしれない。
『こんなの急に渡されても困るだけかもしれないしね、やっぱり諦めよう』
「ちょっと待ちなさいよ!」
「と、ともちゃん!?」
『えっ、えっ!?誰!?』
目の前にざざっと現れた女の子にぽかんと口をあけていると、きっと睨み付けられた。
何この子怖い。
「私は小坂田朋香!」
「あの、私は竜崎桜乃です」
『竜崎・・・あ、竜崎先生の!ってことは1年生?』
「あんた、本当に諦めるつもりなの?」
「と、ともちゃん!この人先輩だよ!?」
「恋愛に上も下もかんけーないの!」
『え、えっと……』
おろおろしていると、ともちゃんと呼ばれた女の子が再び私に目線を戻して、そのままびしっと私を指差した。
「いい?こういうことは全力で行かなきゃダメなの!そうやってうじうじ考えてたら勉強云々それどころじゃないわよ!それこそ受験に響くわ!」
「ともちゃん!そういうことは言ったらダメだよ」
「そうだけど、でも!」
「ごめんなさい、梓月先輩!ともちゃんは悪気があっていったわけじゃないんです。えっと、先輩、最近よくテニスコートに来てらっしゃいますよね?」
『え、あ、うん』
「私たち、よく梓月先輩がテニスコートにいるのを見かけちゃって……凄く悲しそうにテニス部の練習見てるから、それで気になってただけなんです」
『えっ!私そんな顔してたの……』
「そう!そんな顔で来られちゃ私たちも盛り上がりそこねちゃうのよ」
「またそんなこと言って……一番心配してたのともちゃんじゃない」
「ちょっ、桜乃は黙ってて!」
真っ赤にして怒鳴ったともちゃんに桜乃ちゃんは小さく噴き出した。
かわいいなぁ……仲がいいんだなぁ、と微笑ましく思っていると、まじめな顔をしたともちゃんがずいっと私の前に立った。
「本当にいいの?高校バラバラになるかもしれないんでしょ?」
『うん』
「なら今のうちじゃない!せっかく手紙を書くっていう行動を起こしたんでしょう?」
『うん』
「だったら、この機会うまくいかしなさいよ」
『……』
「梓月先輩、言わなくてもそれで先輩がいいなら別にいいと思うんです。でも私は梓月先輩には後悔なんてしてほしくないです」
『……』
「先輩が後悔しないですむのはどっちですか?」
『私が後悔しないのは……』
もうそんなの決まってる。
手に握った手紙をそっと胸に当てて、私は廊下を走り出した。
目指すはあの人がいるテニスコート。
今度あの子たちにお礼をいっぱいしなくちゃ。
そのためにも私は私が後悔しないことをやり遂げよう。
靴箱から飛び出した私の前には青空が広がって、少し冷たい空気でさえ、なんだか喜ばしかった。
そして、そのまま、あの人の背中に向かって、大声で名前を呼んだ。
『あのっ、これ、読んでほしいんだ!』