丸井くんはむっちゃん万十が食べたい
『むっちゃん万十?』
「そう、むっちゃん万十」
なんだそれは。
余程怪訝な顔をしていたのだろう。丸井くんに苦笑され、きっと食べたら分かる、なんて言われた。
そのむっちゃん万十とやらを丸井くんは食べたことあるのだろうか。
丸井くんは、そんな私の疑問に、いや無い、とばっさり言い放った。
なんだそれ。
「だから食べたいんだろぃ」
くしゃっと笑った丸井くんは、それはそれは楽しみな様子で、私もそんな丸井くんを見て、少しわくわくしてきた。
丸井くんとは恋人同士だ。
言ってて恥ずかしくなるな。
大学で出会ってもう2年になる。
どこか遠出したいな、って話しているさなか、丸井くんが提案してきたのが福岡だった。
福岡は食べ物がおいしいことで有名だ。
丸井くんらしいなあ、なんて言いながら、丸井くんなら福岡って言いだしそうだという私の予感は見事に的中した。だから二つ返事で了承したし、ぬかりなく福岡を調べたつもりだった。
だけれど、丸井くんから出た、むっちゃん万十、という言葉は、まったく私の辞書には載っていなかった。
どういうおまんじゅうなんだろう。
「あ、あった!」
嬉しそうな丸井くんの声に顔をあげると、むっちゃん万十と書かれたのぼりの先に、お店があった。
ドキドキしながら中に入ると、ふわっと香る甘い香り。
つながれた手から、丸井くんのわくわくが伝わってくる。
「ハムエッグ二つ!」
勢いよく注文されたそれは、すぐさまお兄さんから手渡される。
あったかくて、なんだかふわふわ。
『これがむっちゃん万十?』
「そう、それがむっちゃん万十」
まるまると目が大きくて、包まれた紙の中からこちらをじっと見つめている。
そっと紙をあけると、不思議な形が見えてくる。
「むつごろうっているだろぃ」
『あ、むっちゃんって、むつごろうのこと?』
「おもしろいよなぁ……ぶっちゃいくなのてんそっくりだろぃ?」
『なっ!まっるまるなお腹は丸井くんそっくりじゃん!』
にたにた悪戯っぽく笑う丸井くんに反抗してみたが、はいはい知ってます、なんて流された。
あげく、早く食べないと冷めるぜ、なんて言われる始末。
私はそっぽをむいて、むっちゃん万十にかぶりついた。
『おいしい……』
思わずこぼれた言葉に、丸井くんはまたにやりと笑う。
悔しいけど、おいしい。
ハムとキャベツとちょっと半熟な卵が、まろやかなマヨネーズにからまって、少し甘い生地にすごく合う。
夢中になってぺろりと平らげたところで我に返ると、丸井くんはこちらを見て笑っていた。
「やっぱ食べてるてん見てるの好き」
なんて恥ずかしげもなく言うものだから、私も、なんて呟くと、丸井くんは少し驚いた後、嬉しそうに笑って、むっちゃん万十を頬張っていた。
丸井ブン太/福岡