日吉とコーンスープ

ポケットに忍ばせたぬくもりに、何度も触れる。
先ほど買って来たばかりだと言う。
冷たい空気が、私の肺に入っては出て行く。
寒い。
彼からこぼれた言葉が、空気と一緒に私の体をぐるりとかけめぐって、芯から冷えて行く。
寒い。
その目が、その指先が。
寒すぎて、動けない。
やがて、そっぽを向いたつま先が、一度たりとも私へと向くこともなく、見えなくなってしまった。
私は、ポケットの中味を取り出して、プルタブを引く。
あたたかいはずなのに、口に含んだコーンスープは恐ろしいほど冷たかった。


「何してるんですか」


目の前にはいつの間にか、学校の後輩が立っていた。
ホント、何してるんだろうね。
飲み干すと、缶の底にコーンがたくさん残っている。
私が気づいて、ちゃんと振っていたら、きっと、このコーンが残ることもなかっただろう。
でも、私がちゃんと気付かなかったから、こんなことになった。
底にあるコーンは私。
彼に対してやってきた私の罪。
だから私はこれを全部飲み干さなきゃならない。
みっともないと思う。
上を向いて、缶の底を叩いて、粒を口の中に落としていく。
ホントみっともない。


「やめてください」


後輩が静止する声も聞かずに、ひたすら底を叩く。
粒が一粒落ちるたびに、私の目から涙がこぼれる。
全部全部私のせい。


「やめろ!」


私の両手首を掴んで、離してくれない。
何やってんの。あんたなんかに私を止める筋合いないでしょ。


「ダメなところなんて、人間だれしもあるだろ!」

『でも、これは私の問題。日吉には関係ない』


乾いた音に、目を見開く。
私の頬は、ひりひりと熱い。
私は自分の頬に手を当てて、ようやく、日吉に叩かれたことを理解した。
痛い。熱い。痛い。熱い。
日吉は、そんな私の両頬を手で包み込む。


「目覚ませ!気付けなかったのは、あいつも同じだ」


私も、彼も、気づいていたらきっと、底に何も残っていなかっただろう。
いや、残っていたとしても、二人で綺麗に飲み干す方法を見つけられたはずだ。
それなのに、私一人だけが全部飲み干そうとしていた。
底に残った粒の一つ一つが、私たち二人の罪だった。
叩いてしまってすいません。
日吉はなんだか悔しそうな顔をした。



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