日吉とアイス
こたつといえば、アイスなんだってよ。
カップアイスを片手に、新聞をめくりながら、向側に座っている日吉にそう言うと、日吉は興味なさそうに、みかんをむいた。
「こたつと言えばみかんじゃないんですか」
私もそう思ってたんだけどねえ。
『最近はどうも違うみたい』
日吉は流行に乗り遅れているねえ。そう言わんばかりに、新聞の右端の記事を指さしてみれば、日吉はまた興味なさそうに、二つ目のみかんに手を伸ばした。
『だからさ、私も流行について行かなきゃと思ってさ』
アイスを掲げて、日吉にみせびらかす。
先ほど、寒い寒いと言いながら、コンビニで購入したカップアイスは、未だに冷たく、ふたをあけると、甘い香りがほのかにした。
「てんさん、乗れもしない流行に乗ろうとしなくてもいいと思いますよ」
『日吉の分は無いからね』
「はいはい」
このアイスは私のものだし。日吉の分なんて買ってくるわけないし。
日吉は、呆れたように、私とカップアイスを見比べる。
「そのわりにはみかんの味、忘れられないんですね」
アイス、みかん味。
先ほど少し馬鹿にした分を返すように、日吉はにやりと笑った。