仁王とチョコレート

イルミネーションが綺麗だ。
冷たい空気の中で、キラキラ輝く光があたたかく感じる。
商店街の一角にたくさんの人が集まる中、私は、そのシンボルと言ってもいい大きなツリーの前で一人動けないでいた。
あたたかい。
あたたかくて、あたたかくて、苦しい。
息が出来ない。涙が止まらない。
そんな私を見た恋人たちが、変なものでも見るように、笑いながら避けていく。去っていく背中が憎らしくて、情けなくて、切ない。


「なーに泣いてるんじゃ」


そんな声と共に、私の口に何かが放り込まれた。
甘いけれど、少しほろにがい。舌の上で、ゆっくりととけていく。
チョコレート。それは私が大好きなチョコレートだった。
何で私の口の中にチョコレートが。
そう思って、俯いていた顔をあげると、目の前に一人、誰かが立っていた。サンタクロースの服を着て、白い袋を手に持って、その人は笑っていた。


『サ、ンタ、さん?』


そんなわけはない。若いし、喋り方だってなんか変だし。そんなわけないって分かってはいるけれど、ついその言葉が口から出てしまった。


「そうじゃなぁ。そうかもしれんのう。きっとサンタクロースとは俺のことやき」


なんとも歯切れの悪い答えに少し笑ってしまった。なんでだろう。不思議。さっきまで何を考えても楽しくもなんともなかったのに。


「俺から、てんへのクリスマスプレゼントじゃ」


なんで私の名前を知っているの。そんな言葉を阻止するように、再び私の口の中にチョコレートを放り込む。


『……おいしい』
「……ようやっと笑ったのう」
『え?』
「なーんも」


メリークリスマス、てん。
彼はそう言って、闇の中に姿をくらましてしまった。
イルミネーションの中に一人、私だけ取り残されている。
夢だったのだろうか。
私の口の中には、まだチョコレートの味がのこっている。
どうして彼は私の名前を知っていたのか、どうして彼は私の好物を知っていたのか、どうして彼は突然姿を現したのか。
分からないことだらけだ。
けれど、彼がくれたチョコレートは私の心をゆっくりとあたためていった。
彼はもしかしたら本当に、サンタクロースだったのかもしれない。



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