白石家のタイムスリップ事情

ここはいったいどこや。
さっきまで俺は父親と一緒にテニスをしていたはずだ。
けちょんけちょんに負かされて、やる気なくして……あれ、それでどうなったんやっけ。
あかん、なーんも思い出せん。


「なぁ、君、なんでこないな道のど真ん中で寝とるん」


ほんまや。
なんで俺こんな道のど真ん中で寝転がっとんねん。
手を差し伸べられてほぼ反射的にその手を掴んでびっくりした。体を起こしてくれたそいつがあまりにも父親に似とったからや。


「……俺の顔になんかついとるんか?」

『いや……起こしてくれておおきに』

「お?おん、それは別にかまわんのやけど」

『なんで俺こないな所で寝とったんやろな』

「それはさすがに俺も知らんわ……」

『そらそうやな』

「しかし……」

『なに』

「君、なんや俺に似とるような似とらんような」

『……』

「なに」

『なにも』


はっはっは!
せや。そんなはずはない。似てたとしても他人の空似っちゅーもんがある。
二人で笑っていたら、とおりすがった自転車に乗ったおばちゃんに変なもんでも見るような目で見られた。


「ここで会ったのも何かの縁。テニスしに行こうや」

『……なんでテニス』

「なんでって」


君もテニスするんやろ?
そう言われてそいつの視線を辿ってみたら。
そういや俺練習着のままやん。


* * *


「ほな始めよか」


連れてこられたのは、四天宝寺中学校のテニスコート。
しかしこの男四天だったのか。いや待て、こんなやついたっけ。俺一応テニス部やねんけど、見たことない。勢いでタメ口使ってしもてるけど、どうも先輩っぽいし。まぁ、それなりに人がおる部活やから、気づかん間に大会終わって卒部したのかもしれん。


「あ、ラケットこれ使ってええで」

『お、おおきに……ってこれ……俺と一緒のやつ』

「ほんまに?センスええなあ」

『センスええんかな?』

「これ最新モデルで俺も最近やっとこうてきたんやで」

『は、最新……?』

「使ってみたけどかなりええ。俺にぴったり合う無駄の無さや」

『無駄……』

「さーて、始めよか!」


何かがおかしい。
こうやって打ってる間も、違和感しかない。初めて会ったはずなのに、打ち方に既視感がある。
あのショットも、受けたことある。
それにさっきのラケットも最新どころか、十数年前のものだ。
おかしい。
なんで、なんでや。
なんで、俺こいつのことなんも知らんはずやのに、なんで知ってんねや。


「あっ!上手いなぁ、そこ俺の苦手なコース。よう分かったなぁ」


特段目立つものではない。
だけど、基本に忠実で、パーフェクトで、まるで聖書のようなテニスプレイ。
試しにあのコース狙ってみたけれど、最初に感じていたあの懐かしさ、もしかして。


「危ない!」


その声で、はっと目を開けると、心配そうにこちらを覗く父親があった。


「良かった……」

『親父?』

「せやで、お前のおとんや。頭は打ってないやろな?どこか痛いところはないか?」

『……』

「てん?」

『……親父のひざまくらは嬉しないなあ』

「アホ!心配したんやで!」


ああ、そういや、やる気なくしてだらだら打ってたら、変なとこあたってこっちにボール跳ね返ってきたんやっけ。俺それでぶっ倒れて……。
だっさ。いろいろ思い出したら俺だっさ。なんや分からんけど、いろいろ笑えてきた。
大爆笑しとったら、まるであの自転車に乗ったおばちゃんのような目で親父が見てくる。


『そういや』

「な、なんや」

『このラケット、親父ずっと大事にしとったんやな』

「え?」

『そら、こないふっるいラケット使わされて、新品もこうてくれんし、ほんまなんやねんとはおもっとったけど。言わんかったけど、これ、俺にぴったり合う無駄の無さ、やな』

「!」

『流石親父、センスええなあ』

「……センス、ええんかな?」

『アホ!自分で言うたんやろ』

「せやったな」


親父があまりにもガキっぽく笑うもんだから、親父でもこないな風に笑うもんなんかと少し驚いたけど、でもきっと、俺が知らんだけで、親父はガキの時からなーんも変わっとらんのやなあ、となんとなく思った。



(今思えば似とるけど似とらんかった理由よう分かるわ)
(だってお前、俺よりお嫁さん似やもんな)



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