光と僕と歌と

あ、またこいつや。

俺がついついそう呟いてしまうほどに、この歌い手は俺の曲を歌っとった。
おもしろ半分でによによ動画に投稿し始めて、もう3年ぐらいになるか。一桁だった曲数も、いつのまにか二桁になっていて、知らない間にのめり込んでいたのが、マイリストを見ればすぐに分かってしまう。
積み上げてあった教科書に足があたって崩れ落ちた時、俺はまた、そいつが「歌ってみた」を投稿していたことに気付いたのだ。

またこいつ。
俺の曲歌っとる。

つい先日アップしたばかりの曲だった。

こいつの歌はちゃんと聞いている。何しろ歌ってくれとる奴がおるっちゅーんは普通に嬉しかったし、こいつが動画をアップする時に、必ずと言っていいほど投稿者コメントのところに感想をくれているからだ。たった一言だけど、俺はそれでも嬉しかった。

相変わらず優しい声やな。

多分男やろう。と思う。中性的な声は、優しく耳に馴染む。少し難しい音程でも難なく歌ってみせるこいつは天才かもしれん。そう思って、少し意地悪がしたくなって、難しい旋律の曲を時々投稿することがある。でも、こいつは普通に歌ってみせるのだ。嬉しい。でも悔しい。そんな気持ちになる。
それを続けていたら、いつの間にか二桁もの曲を作っていた。なんや戦友みたいなもんやろうか。部活の先輩、後輩らとはちゃう、クラスメイトともちゃう、でも、おんなじもん共有しとるような。そんなやつ。くすぐったいけど、でも、会ってみたくもなった。


「ぼくはね、分かるよ」


今回投稿した曲は、柄じゃないけど仲間を想う気持ちを歌った曲だ。歌詞を考えてる時、本当に鳥肌がたった。めっちゃださい。ださい。ださい。自分で書いててださくてしゃーなくて。でも、それ以上にええ言葉見つからんから、もうええわって、投稿したった曲。
それなのに、こいつはちゃんと歌ってくれとった。
こいつは知らん間に人気が出だして、投稿した曲はすぐに閲覧者数は万を超える。人気の曲なら尚更。ツイッターにおっても、タイムライン上にそいつの名前をよく見かけるくらいに。
そんなやつやし、他にもいっぱいいい曲あるのに、なんで俺の曲を全部歌ってくれてんねんやろな。こんなくっそい曲ですら、人気者やのに閲覧者数も増えんような俺の曲をなんで歌ってくれるんやろうか。
……こいつどんなやつなんやろな。

そんなちょっとした興味やった。
今まで見たことがなかった、そいつのユーザーページを見てみる。しかし何にもわからなかった。そいつのハンドルネームくらい。ツイッターもしとらんのやろか。によによ動画のIDやそれらしいもので検索してみても出てこん。AHOOの検索にもぐるーぐの検索にも出てこん。なんやこいつ。なんでこんだけ探しても動画しか出てこないんや。今まで見たことなかった他の投稿動画を俺はいつの間にか必死で見ていた。すみからすみまで、毎日毎日、時間が空き次第見て、そして、二つだけ気づいた。
こいつが、歌によって少し声が違うということ。
そして、その声の一つが、なんだかとても懐かしいということ。

俺は、パソコンをシャットダウンして、部屋を出た。


「お前やったんか」


窓際におかれた綺麗なままの学習机。その上に置かれたパソコンの前に座っていたそいつは、無断で上がり込んだ俺に少し驚いた顔をして、再びパソコンに目を向けた。


「この歌い手、お前やったんやな……てん」

『ぼくはね、分かるよ』


パソコンから俺が作った曲が幽かに流れている。てんは小さいころのままの高い声で続ける。


『光の曲、分かるよ』

「……」

『ぼくはね、一発で分かったんだ』


ずっと、こいつは部屋にひきこもっていた。
隣に住んでいても、幼馴染でも、こいつと顔を合わせたのは随分昔に感じるくらい。久々に会ったこいつは、なんら昔と変わっていないように感じた。見た目も、顔も、声も。その持つ独特の雰囲気も。昔のままのてんは、最後に会った日のまま、俺に背を向けていた。


「不器用だけど優しい曲、仲間のことを大事に思っている曲」


もう一度ゆっくり振り返ったてんは、少し寂しそうに笑った。


「相変わらず、音楽だけには素直なんだね、光」



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