新しい春へ
今日はいよいよ、卒業式。
3年間なんてあっという間だったなぁ、なんて、前の席の菊丸くんに言えば、そうだにゃーって少し悲しそうに言われた。
卒業と言ってもそのまま高等部に上がるだけだけど、大石くんが他の高校に行くこともあって、菊丸くんはさみしいんだなぁ、と思うとちょっと涙が出てきそうになった。
『大丈夫、菊丸くん!私はいつだって菊丸くんの友達だからね!
もしクラスが離れても会いに行くし、会いに来てね!』
「あ、ありがとにゃー!」
二人してめそめそ泣いてると、不二くんが席に戻ってきた。
どうやらさっきまで同級生だけでなく後輩たちにまで呼びだしをくらっていたらしい。
それももちろん告白だ。
「あれ、どうしたの、二人ともそんなに泣いて」
『不二くん……』
「不二!お前悲しくないのかー!だって卒業だぞ!卒業!」
「うん、卒業だね」
『卒業だね、って……』
「それだけ!?」
笑顔で言ってのけた不二くんに、私と菊丸くんは思わずぽかんと口をあけた。
あはは何その顔おもしろいとか言われたことはおいておいて、不二くんには卒業に対して悲しいとかいう感情ないのかな……。
私たちと過ごしたこの1年間楽しくなかったのかな、と思うとまた涙があふれだした。
「え、梓月さん、なんでそんなに号泣!?」
「梓月ー!梓月は不二の言葉に傷ついたんだにゃー!」
「えっ、ごめん、僕何か傷つけるようなこと言ったかな?」
『不二くん……私たちと過ごした1年楽しくなかった?』
「そんなわけないよ、すっごく楽しかった」
『ホントに?』
「本当だよ」
『じゃあ、なんで卒業するっていうのに悲しんでいないの?』
そう言うと、不二くんはきょとんとして、首をかしげたあと、何かに気付いたのか、ふっと笑った。
「だって、僕たちそのまま高等部に行って、また一緒にこうやって話せるだろう?」
『そ、そうだけど……』
「それに、何かが終われば、また何かが始まるんだ。僕はその始まりが楽しみで楽しみでしょうがないよ」
『始まり……』
「でも、不二ー!大石いなくなっちゃうんだぞー!」
「それは確かに悲しいね……でも、彼も僕たちに負けないように他の学校でも頑張るよ、だってあの大石だしね」
「そっか……それもそうだにゃー……他の学校にいったって、俺と大石はゴールデンペアであることは違わないし」
そう言って、菊丸くんは涙を親指で拭った。
私も不二くんに手渡された綺麗なハンカチをお借りして、そっと涙をふいた。
「でも、梓月さんが悲しんでくれるなんて、嬉しいな」
『えっ』
「だから、僕は梓月さんとの新しい高校生活を今以上にもっと楽しいものにしたいな」
窓からふいてきた風に不二くんの髪の毛がさらさらと揺れる。
まさか不二くんがそんなことを思ってるとは思わなかった。
悲しいという感情がないなんてそんなことがあるはずもないのに、一瞬でも思ってしまった私はなんだか残念だ。
不二くんはこんなにも私たちとの新しい高校生活を楽しみにしていてくれているのに。
『ごめんね、不二くん……それに菊丸くんも。春からもよろしくね!』
「ああ、よろしく」
「よろしくだにゃー!」
3人で顔をあわせて笑うと、卒業式開始の放送が入った。
さぁ、いよいよ、私たちの新しい春の始まりだ。