御守り交換

「こんなとこで何してんっすか、先輩」

『ふええあ!?』

「……きもい」

『きもいとはどういうことかな!』

「そのまんまの意味っすわ」

ふっとなんだか見下した目で笑われた気がするが、このさいもうどうでもいい。
私は私のやるべきことをしなくちゃ。
そう思って、再び茂みに目をやる。
いったいどこに落としたんだろう、私の大切な大切な御守り。
わざわざ学業の神様を祀っている天満宮まで行って買ってきた小さくてかわいい御守り。
受験生なのに御守りを落とすなんて、なんて縁起悪いの。

「梓月先輩」

『だから、何!私はいそがしーのー!』

「……なんか探し物っすか」

『まぁ、そんなところだよ、ぜんざ……財前くん』

「今先輩ぜんざい言おうとしたやろ」

『気のせいじゃないかな!』

「いや、別に本望っすからいいんすけどね」

『いいのかよ!って、あああああもおおお!思いっきり君のペースに巻き込まれるわ!そんなに私の邪魔したいの!?』

掴みかかる勢いで財前くんにそう言えば、そんな暇じゃないっすわ、と鼻で笑われた。
なんなのこいつ。
私わからない最近の若いもんの気持ちが。

『もう、財前くんなんて知らね!私はちょっと集中したいから話しかけないでね!』

「あ、せや、梓月先輩」

『話聞いてなかったのかな財前くん!』

「先輩にこれやるっすわ」

『は?え?』

「俺のリストバンド、やる言うとんねん」

『は、はぁ……』

その場で左腕からとられたリストバンドを私の方に投げよこした。
いきなりなんなのこの子は。
ぽかんとしていると、財前くんはにやっと笑って、ポケットから何かを取り出した。

『そ、それ、私が探してた御守り!』

「ま、ちゅーわけなんで、この御守り貰っていきますわ」

『はっ!?え、なんで!』

「だから、そのリストバンドと交換」

『えっえっ』

「いいから交換されとけ!」

『えええ!』

「じゃ、先輩、俺教室戻るんで」

くるっと身を翻した財前くんの耳は確かに真っ赤で、私の顔もまったく同じ赤色なんだろうけど。
ほっこりとあたたまった気持ちを込めて、財前くんの背中に向かって、大きな声でありがとうを言った。
いつも無表情で怖い印象だったけど、やっぱり優しいんだな。
私は左腕に財前くんからもらったリストバンドをはめ、教室に戻ることにした。


戻ったクラスで謙也と白石からにやけ顔きもいとか言われたのはまた後の話



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