不安と期待と
やばい、本当にやばい。
いや何がやばいのかっていうと、もうすぐ試験開始時間なのである。
もう心臓はばっくんばっくん。
いくらそのまま高等部に上がると言っても、やっぱりそれなりの成績を保持しておかなければならない。
高校生活には確かに期待はある、だけれど、勉強に関する不安は大きい。
それに、高等部からこの学園に入学してくる人も入り混じって、クラスに馴染めなかったらどうしようとか考えてたら夜も眠れなかった。
そしてとうとう、そんなまぜこぜな感情のまま、中学最後の試験の日になってしまったのである。
寝不足だし、勉強したりない気もするし、朝からどんよりとしたまま席に座った。
「よ!梓月、ってお前なんだよその顔!真っ青だぜ!」
『ん、あー宍戸かーおはよー』
「いや、おはよーじゃねぇよ!」
『あれ?違った?じゃあ、こんにちは?』
「そういう話じゃねぇ!」
『何怒ってるの……』
「怒ってなんか……とりあえず保健室行くぞ!ほら、立て!」
『え、なんで保健室?』
「あーもう、喋るな!」
ぐいぐいと腕を引っ張られるまま、廊下をすたすたと宍戸は歩く。
意識が朦朧としたまま、ついて行っていたが、途中で予鈴がなった。
そうだ、今日は試験……休んでなんかいられない。
ぴたりと私が止まると、宍戸も気づいてこちらを振り返った。
「どうした?」
『私教室戻る』
「はぁ?何言ってんだよ」
『早く教室戻って試験受けなきゃ』
「おい、それどころじゃねぇって」
『だって!この試験ちゃんと受けて、いい成績残さないと、私もう一緒に宍戸たちと騒いだりできないかもなんだよ!?みんなと一緒に高等部上がって、みんなと笑い合って、一生懸命勉強してっ、』
言っている途中で涙がぶわりと目から出てきた。
そう、一番怖かったのは、みんなとはなれることだ。
この試験を落としたらもう一緒にみんなといられなくなってしまうかもしれないと思うと胸がズキズキと痛い。
「激ダサだぜ……」
『え……』
「だから、激ダサだって言ってんだよ、梓月」
『なっ、』
「仲間だったら、どこにいたって一緒に笑えるんだよ。でもな、そんな仲間が無理して試験受けてるのを見て見ぬふりして、途中でぶっ倒れたりしたら、それこそ仲間としてどうなんだよ……!」
『宍戸……』
「あーもう!こんなくっさいセリフ、激ダサだぜ」
『そんなことないよ、凄くかっこよかった』
「ばっ、ばかっ」
『宍戸』
「ん?」
『ありがとう』
そう言って笑うと、宍戸はどこから取り出したかわからない帽子を目深にかぶって、おう、と親指をたてた。
なんだか勝手に悲しんで、私ってばばかみたい。
それまでずっとぐるぐるまわっていた感情が、宍戸の言葉のおかげでスッと消えてなくなった。
すっきりとした頭で、冷たい空気を吸い込むとなんだか頭がさえてきた気がする。
『ね、宍戸、私はもう大丈夫だよ』