吐く息が白い。
いつの間にか手にしていた携帯を耳にあてて、呼び出し音を数回聞く。1回、2回、3回、4回、5回。ちょうど5回目で出た彼は、ゆっくりもしもしと呟くように言った。
『もしかして寝てた?』
「んーそうかも」
あからさまな寝ぼけ声を聞いて、私は笑った。口を開くたびに漏れ出す息は、白い煙になって消えていく。
「てんちゃん今どこ?」
『ベランダ』
「どおりでだC。歯鳴ってる」
こんな寒くて真っ暗なベランダに一人、体育座りをしている私は相当バカだ。しかもパジャマ一枚だけしか着てないし。そう言えば、笑われながら怒られた。
「なんでベランダいんの?」
『ジロくん家探してた』
「嘘ばっか」
『うん、嘘』
「どうせまた星見てたんでしょ」
『せーかい』
目の前に広がる星空は、いつ見ても綺麗で、でもこの冬の寒さ故に澄んでよりいっそう美しい。その感動を伝えたくて、握っていた携帯でジロくんに電話をかけていた。
『あ、流れ星』
「マジマジどこ!?」
すうっと暗闇に飲み込まれるように消えて行った星。私は思わず立ち上がって、目を見開いた。電話の向こうで、何かを落としてしまったような音がして騒がしい。
「やっべ!鉢植え蹴っちったC!」
『……ジロくんどこいるの』
「ベランダ」
『いつから』
「電話貰う前からだけど?」
『どうして』
「んー……なんかてんちゃんから電話が来る気がして?」
そう言ってジロくんは笑った。こんなに寒いのに。もう夜中なのに。彼は寝ぼけながらベランダで私の電話を待っていたんだろうか。もしあの流れ星が私の気持ちで、落ちて行ったのが彼の心の中だったら、どんなにいいだろう。そう思いながら私はまた白い息を吐いた。