ひっ、と悲鳴じみた息が私の口から洩れた。
振動と呼応するように、頭の中で危険という文字がチカチカと点滅する。
どうしよう。どうしよう。出るべき?出ないべき?いやこれは絶対でないべきでしょ!怖すぎる。何これ本当に怖い。どうしよう。過去の私何をした。
思い当たる節がありすぎて逆に覚えてない。
スマホ画面に表示された、真田弦一郎という名前にびくびくしていると、やがて、通知が消えた。
びっくりした。
真田副部長が私に電話をかけてくるとか、それはもう怒られるという一択しかない。
過去の経験上そうだ。
日誌に落書きをしたまま忘れてた時だとか、練習を抜け出して買い食いをしていた時だとか、試合に化粧をしていった時だとか、そのほかもろもろ。
思い出しただけで体が震える。
このまま居留守で突き通そう。そう思って画面をタッチした瞬間だった。再び真田副部長からの着信が入り、うっかり通話アイコンをタッチしてしまった。
「梓月!」
『ひっ!』
「さっさと電話に出らんか!」
『ごごごごごごめんなさいすいません申し訳ありませんでしたぁ!もう二度といたしません、どうかお許しください!失礼します!』
ありったけの謝罪を述べ、通話終了アイコンを押す。
こ、怖かった。それに声がでかい。よかった。何をしたのか覚えてないけれど、もうこれで許してもらうしかない。
しかし、それでも何度も電話がかかってくる。しつこい。しかも居留守はもう使えない。仕方なく、びくびくしながら通話アイコンをもう一度押した。
「何故切った!」
『ひっ、ごめんなさい!もうしません!』
「待たんか!……お前は何か勘違いしている」
『は、はぁ……』
「今日はお前の誕生日だろう」
『へ』
「おめでとう」
『え』
「俺が言いたかったのはそれだけだ」
また明日学校で。
そう副部長は、寧ろ優しい声で私に告げると、電話を切った。
……なんで覚えてくれてるの……。
いつも怒られてばっかで、呆れられてて、失望させまくっているのに。誕生日を覚えててくれていて、なおかつこうやって電話までして祝ってくれるだなんて思わなかった。
「また明日学校で」ご迷惑をおかけしていいのだろうか。
なんだかほっとしたのと、嬉しいのと、怖かったのと、感情がごちゃまぜになって、私は一晩中泣いてしまった。