午後9時。
鳳くんから電話がかかってきた。
私は思わずびっくりして、今しがた口にいれたばかりの飴を、喉に詰まらせるところだった。
だってあの鳳くんだ。
テニス部のレギュラーで強くて、かっこよくて、それなのに、みんなにとても優しくて、勉強もできる、超超完璧なクラスメイト。そんな鳳くんが、何故私なんかに電話してくるのか。
わけがわからない。


「もしもし?梓月さん?大丈夫?」

『え、あ、はい、うん』

「そっか、それならいいんだけど」


テンパって短い返事しかできないバカみたいな私にですら優しい鳳くん。
天使か?寧ろ、神か。
いや待って、そもそも何故、鳳くんは私の番号を知っている?誰が教えたんだ、日吉か?あのきのこか?きのこふざけるなよ、グッジョブ!


「梓月さん?」

『あ、ごめんなさい、えっと、あの、私がなにか、失礼なことでも、いたしましたでしょうか』

「どうして敬語?失礼なことなんてとんでもないよ」


クレームの電話でなければ、なんなのだろうか。あ、あれか。連絡網か。氷帝に限ってそれは違うか。


『え、じゃあ、あの、なんでしょうか』

「俺、梓月さんにお礼が言いたくって」

『お礼とは!』


鳳くんにお礼されるなんて、そんなわけが!そもそもお礼されるようなこと何もしてないし、寧ろいつも目で追ちゃってごめんなさいって感じだったし、迷惑しかかけてないはずなのだけれど。


「俺が落とした楽譜、拾ってくれてありがとう」


楽譜?
鳳くんが落とした楽譜なんて、私は知らない……え、あ、待って、もしかして、あの廊下に落ちていた楽譜は……。
今日の休み時間に、廊下で楽譜を拾ったのだが、私はてっきり傍にいた樺地くんのものだとばっかり思っていた。そのまま樺地くんに渡してしまったけれど。あれは鳳くんのものだったのか。


『それでわざわざ』

「うん、とても大事なものだったから」


ちゃんとお礼言えて良かった。
なんて言われてしまったら、思わずにやけるしかない。
あーあ、電話越しでよかった。


(後々聞いたら、樺地くんが電話番号教えたみたい。きのこじゃなくて、樺地くんグッジョブ!)
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