12月31日、大晦日。
今日することと言えば、そう、大掃除だ。
リビングのソファに寝そべって、うつらうつらしながらテレビで年末番組を見ていれば、母の怒声が響き、しぶしぶと自分の部屋に戻ってきた。ドアを開ければ、もはやうめき声に近いため息が口から洩れ出る。とりあえず、だ。まずは洋服を畳もうか、なんて一人ごちて、ジャージに手を伸ばすと、ひらりと落ちる一枚の紙切れ。
なんだこれ。
首をかしげて、裏表裏表何度も見返すけれど、陽で焼けてしまったのか文字が薄くなって読めない。一通り洋服を畳み終えて、先ほどの紙を机の上に置いた。机だけはなんでかしらないけどさっぱりとしていて、ただ最近使っていなかったことがばれそうな埃を拭きとろうとしたときに、手があたって写真たてがひっくりかえった。私は驚いて、慌てて元に戻して、少しだけはっとした。
何かを忘れている。そんな気がする。
私は机の上に置いた先ほどの紙きれと、写真を交互に眺めた。写真の中の男とぱちりと目があった時、ベッドの上に置いてあった携帯に飛びかかり、電話帳からあの男の番号を探し当て、すぐさまかける。1回、2回、3回目のコール音でつながった向こう側で、深い深いため息が聞こえた。


『千歳』
「今更なんね」
『……怒ってるの?』


たった一言だけどその声色には不機嫌さがにじみ出ていて、私は思わず笑いそうになり、それをぐっとこらえた。紙切れをくしゃりくしゃりと弄び、薄くなって見えない数字をそっと指でなぞる。電話の向こうで千歳は小さいくしゃみをした。


『私、今日大掃除なの』
「そうね」
『だから千歳とは会えないかもね』
「……なんで?」
『だって部屋汚いし、いつ終わるかもわかんないし』
「早く!早くお掃除しなっせ!」
『えー?逆になんで?』
「なんでって」
『なんで?』
「な、なんでもないばい!もうよか!てんなんか知らん!」


無理矢理通話を終了させられ、私はしばらく携帯を耳にあてたまま、ゆるゆると唇がゆるんでいくのがわかった。
今の今までずっと、私からの連絡を今か今かと待っていたのだろうか?
この寒い中、暖房もつけず、こたつにも入らずに、窓際でずっと私の姿を探していたのだろうか?
そんな千歳の様子を想像するだけでにやけてしまう。にやけながら、母親の催促に適当に返事をして、未だにちらかったままの部屋を見渡した。ため息が出てしまいそうになるのをぐっとこらえて、掃除を再開することに決めた。
さっさと終わらせてしまおう。
残り少なくなってしまった時間を、できるだけ彼といるために。そして、今年の彼の誕生日を祝う最後の人となれるように。こっそりと予約したケーキを持って。
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