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『うげげ、謙也先輩じゃん』
「なんやねんお前は!そない毎回毎回嫌そうな顔して!」


放課後、はやめに教室を抜け出れば、たまたま廊下で謙也先輩と出くわした。
うわあ、めんどくさい人と会っちゃった。
1年の時たまたま財前と仲良くなって、そしたらたまたまこの謙也先輩に会って、たまたま財前との会話を聞く機会があったのだけれど、財前のポーカーフェイスが崩れてしまう程めんどくさい人なんだとわかった。
うん、確かにこのテンションはきつい。朝とか特にね。
そんなめんどくさい先輩に、別に嫌そうな顔なんてしてませんよーって言えば、口に出てんねんって言ってはたかれた。
ほらこれ。これがやなんだよ。私一応女の子なんですけど。


「は?お前女?どこが?」
『ぶちのめしますよ』
「ぶ、ぶちのめっ!?」
『冗談です、先輩。何本気でびびってんすかぷぷぷ』
「うざっ!お前めっちゃうっざいわ!っていうかびびってなんかないっちゅー話や!」
『はいはい』
「梓月、お前俺の扱い適当すぎやろ」


あーまじありえへんなんて額に手をあてて悩んでる謙也先輩。めちゃくちゃださい。でも先輩、喜んでください。今日私めちゃくちゃいいニュース持ってきてやったんですよ。先輩のために。もう一度いいますよ?先輩のために。もう一度言っときますか?


「うるさっ!なんやうるさっ!急に饒舌になりだしたと思ったらなんなん?ニュース?」
『聞きたいですか?』
「えらく勿体ぶるねんな……」
『とっておきなんですもん』
「で?」
『は?』
「いや、え?はぁ?なんやねんその手は」


いやだもう、先輩ったら。誰がタダなんて言いましたか、誰が。見返りはもちろん必要じゃないですか、どうしたんですか?ついに頭でも湧きましたか?こんな世の理、先輩知らないなんておかしいんじゃないですか?
ずずいと手をさらに伸ばして、謙也先輩に催促する。
謙也先輩の性格上、一度聞いてしまったら最後まで聞かないと気が済まないタイプだ。
さて、何をくれるかな?アイス?ジュース?すいかでもいいな、涼しいものくれるといいんだけど。そんな期待の目を、黙ったままじっと私の手を見つめている先輩に向ける。先輩は私の腕を掴んで、いきなりべろんと指をなめた。え?なめた?えっ、えっ!?


『な、ななななななにを!?』
「ふうん」
『いや、何一人で納得してるんですか!意味わかんない!な、なんで舐める!?』
「欲しかったんやろ?」
『はぁああ!?』
「見返り、欲しかったんやろ?」
『欲しかったですけど!』
「じゃあ、ええやん」
『意味がわかんない!』


何この人。意味わかんない。なんでこんな涼しい顔してんの。何考えてるの。もうだめだ、財前……私もこの人の相手無理だわ。そりゃ財前の顔も崩壊するわけだわ。


「んーでもこれじゃあ俺が得したようなもんやんな」
『は!?えっ!?』
「まぁ、ええわ、貰っとき梓月」
『だから何を!?』
「だーかーらー!俺をやるっちゅー話や」


ああ、夏だからかな、蝉の声にまじって幻聴が聞こえる。私ちょっと頭痛いかも。全然理解できない。あーこりゃだめだわ、熱中症だわきっと、顔に血がのぼってめっちゃ熱い。なんか冷たいもの買ってこよ。
先輩をその場に残してふらふらと歩きだしたら、急にがっと腕をつかまれた。痛い。


「で?俺のために用意してきたっちゅー返事は?」


とか意地悪な笑みを浮かべて、私を腕の中に収めた先輩に私はもう、まいったとしか言いようがなかった。
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