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帰り道、本当はいけないんだけれど近くのコンビニでアイスを買って食べながら帰るのが、最近の日課になりつつある。
そんな今日も、テスト期間で早めに帰ることになった私は、カンカン照りの青空の下、日焼け止めも満足にぬらないまま、だらだらと帰路についていた。しばらくして右側にコンビニの看板が見えてきたのを確認すると、私は地面を蹴った。
ああ、心と体のオアシス!
喜びに満ち溢れた心がドクドクと高鳴り、体もぷるりと震えた。早くたどり着きたい、冷え切ったあの店内に飛び込みたい、その一心で、約100mの距離を今ある残りの体力を振り絞って走り出す。
あともう少し、あともう少しでオアシスが!
蝉の声が前から後ろへと言ったり来たり。地面から湧きあがる熱ももう気にもならない。駐車場を飛ぶように駆け、自動ドアが開いた瞬間店内に飛び込めば、冷房のひんやりとした風と、やわらかな感触が……え?やわらかな感触?


「駆けこんだら危ないですよ」


声につられて見上げれば、集会とかでよく見る顔で、しかも立海の制服を身に着けている。もしかして。


『ふ、風紀委員の柳生先輩!?』


肯定するかのようににこりと笑んだ先輩は私の体をゆっくりと離した。
私にむけた笑顔があまりにもさわやかで、思わず目を細めたのもつかのま、血の気がいっきに引いた。本当は禁止されているコンビニへの立ち入りを、こともあろうに風紀委員の柳生先輩に見られてしまった。大問題だ。学校に親とともに呼び出され、必死に作り上げたまじめな子のイメージが崩れるのではないか。そんなことになってしまったら、私の平穏で平凡な学校生活がおしまいだ。それだけじゃない。私の帰宅途中のオアシスが遠のいて行ってしまう。
心なしか、黒く見え始めた先輩の笑顔に、顔を引きつらせて笑えば、わかっていますよね、なんて言われて肩にぽんっと手を置かれた。
終わった。私のハッピースクールライフが終わった。
呆然としながら突っ立っていると、先ほどから口を手で押さえている柳生先輩がぷっと噴出した。


「ね、黙っていますから、私にアイスをおごってください」


なんて本当におもしろそうに笑いながら言われるものだから、ポカンとしていれば、今度は爆笑された。


『えっ!?柳生先輩もあのコンビニよく行ってたんですか!?』


あのコンビニから少し離れた公園に連れられやってくると、柳生先輩はベンチに座って隣を私に促した。手に持っていた袋から取り出したアイスを先輩に手渡して、私も座る。


「まぁ、友人に無理やりって感じですが」
『なぁんだ……』


本気でほっとして、これからも通えることに喜びを感じていると、柳生先輩がこれは二人だけの秘密ですよ、なんていうもんだから少しどきっとした。
初めてこうやって会って話しているのに、すごく話やすくて、思わずいろんな話をしてしまった。くだらない話なのに柳生先輩は親身に聞いてくれるし、優しく微笑みながら聞いてくれる。いつもは風紀委員らしく生徒に厳しいところしか見てなかったから、すごく違った一面を見れてる気分。なんかこういうのっていいなぁ。


「やーぎゅ」


いきなり聞こえた声にびっくりしていると、少し眉間にしわを寄せた柳生先輩が、仁王くんですか、と言ってため息を吐いた。公園の入り口に、その仁王先輩が立っていて、こちらをおもしろそうに見ていた。


「逢引中悪いが部長がお呼びじゃ」
「なっ、誰が逢引っ!って、幸村くんが?」
「さっさと戻ってこんと知らんぜよ」
「あっ、待ちなさい仁王くん!今行きますから!」


柳生先輩が私の方を向くと、少し寂しそうに笑った。


「今日は楽しかったです、ありがとう。あ、アイスも」
『いえ、私こそ』
「では、このことは」
『二人の秘密、ですよね』
「ええ、そうです、よくできました」


ふっと笑った先輩は私の頭を軽く撫でて、先を行く仁王先輩の背中を追って行った。
ああ、もうどうしてくれよう。ドキドキが止まらない。
また明日あのコンビニに行ったら先輩に会えるだろうか。
止まらない鼓動をごまかすように、家に向かって私も走り出した。
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