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「ほらはよしんしゃい」
『くっそ仁王めぇ!』
真っ青な空の下、さんさんとふりそそぐ太陽を横目に睨んで私はため息をこぼした。
ため息吐けるくらいならさっさとこぎんしゃい。後ろから時折放たれる言葉に、私は今にもハンドルを離して奴に殴りかかりそうになる。っていうかなんでこいつは勝手に人の自転車の後ろの荷台に乗ってるんだ。
今現在テスト期間中の我が高校は、それ故に帰宅時間も早い。今日もさっさと帰ろうと思って自転車乗り場に行けば、その時にはもう仁王は私の自転車の荷台に座って、こちらを見てにやりと笑っていた。そしてあの憎たらしい口で、俺をつれて帰れなんて言ってくるもんだから思わず奴のトレードマークのしっぽをひきちぎってやろうかと思った。やらなかった私はそうとう優しい。感謝しろ。
「考えごとできるなんて余裕じゃのう、梓月」
『うっさいわ!坂だから降りろ!っていうかそもそもなんで乗ってんだよお前!』
「帰る道が一緒だから?」
『ウソつけ!逆方向だわ!』
そうじゃったかのう。なんて言って仁王は笑った。
くそ、誰かこいつの余裕奪って。幸村くん奪って。
あー座ってこぐのつらい。でも仁王が私のお腹に手をまわしてきたから座ってこぐことしかできない。しかもなんかくすぐったいし。
「何感じとるん」
『は、はぁ!?』
「お肉」
『おい仁王!人の横腹つまむなばか!』
ああもうホントこいつ道に放り投げたい。っていうか、乗せる義務もないじゃん。道端に捨てちゃってもいいじゃん。なんで頑張ってんだよ私。
「そりゃお前さんが俺のこと好きだからじゃろ」
『は?今なんて?聞こえなかった!』
「なーんでも」
『……なんだそれ』
小さく笑った仁王がぎゅっと手をまわしていたお腹に力を入れてきたので、私はまたなんだかくすぐったくなって、それをごまかすようにペダルを思いっきり踏み続けた。