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今年は閏年、4年に一度しかない年である。
そして何と言っても、あの人の、天才・不二周助の誕生日だ。
だからといって、何かするわけでもない。
いつもこの教室から見えるテニスコートの上に立つ、彼の姿を追ってただけの私にとって、最も大切な日であり、それでいてなんでもない日なのだ。
それに、今頃彼のまわりには学校中の女子が集まってるに違いない。
そう思うと、悔しくて、自分にうんざりした。
だって言い訳でしかない。
彼女たちは彼が喜ぶプレゼントを一生懸命に選んで、そして、必死の覚悟で不二周助に渡しているんだ。
そんな努力もしないで、どうせ受け取っても自分を見てくれないから関係ないなんて、その時点で気持ちで負けている。
結局、私にとってその程度だったんだとしか思えない。


『あーあ、やんなっちゃうなぁ』
「何が?」


後ろから急に聞こえた声に驚いて、振り向くと、そこにはあの不二周助が立っていた。
どうしてここに?部活は?それよりなんで私に声を?
頭の中ははてなマークばかり、それに気づいてるのか、不二周助は笑った。


「君は、いつもここからよくテニスコートを見ているよね?」
『なっ、』


どうしてそれを……という前に、彼は私に近づいて、手首をつかんできた。


「どうして……いつも見ているのかな?」
『なんでもないっ……です』
「ふうん」


心なしか手首をつかんだ彼の手の力が増したような気がした。
ねぇ、僕の目をちゃんと見て、と言うので、仕方なく顔を上げると、不二周助はいつの間にか開眼していた。
その真剣で獲物を捕らえるような瞳に思わず吸い込まれそうになる。


「今日、僕の誕生日なんだ」
『……知ってます』
「君からは、ないの?僕へのプレゼント」
『そんなもの』
「あるよね?」


僕の目はだませないよ、そう言いたげに笑う彼に、顔が熱くなるのがわかった。
見透かされていた。
私がこっそり彼へのプレゼントを用意していたことも。
一生懸命彼が喜ぶようなプレゼントを選んでいたことも。
結局私も彼をとりまく女の子たちとなんら変わらなかったことも。
こうして遠くからそっと見つめていたことも。
そして、自分のキャラじゃないといって、なんだかんだ理由つけて諦めていたことも。
なにもかも、私の存在すら、彼には何もかも気づかれていた。
だから、こうやって、わざわざ彼は私のもとに現れてくれたんだ。


『優しい人』
「いいや、僕は単純に君から貰いたかっただけだよ、梓月てんさん」


そう言って、不二周助は私に優しく微笑んだ。
どこまでも優しい人。
そして、私は本当に幸せ者だ。
今日くらい、4年に一度しかない今日くらい、素直になろう。
私はそばに置いていた鞄の中から、綺麗に包装されたプレゼントをとりだし、彼にそっと手渡した。


『お誕生日、おめでとう、不二くん』


12.02.29
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