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明日は七夕。
私のクラスではホームルームの時間に七夕かざりとつくることになった。小さい笹を用意して、教室のすみっこにちょこんとかざるのだ。あまりの小ささに派手好きのみんなは始めブーイングの嵐を起こしていたが、結局納得したらしく、手元の折り紙に集中している。私もこのくらいで全然十分だと思う。


「なぁなぁ、てん。てんは何作ったん?」


一人一個作ることになった七夕かざり。私はそんなに手先が器用じゃないから、無難な色紙のわっかを作っていた。


「おっ!色紙のわっかさんや!わいも同じの作ってんで!せや、一緒につなげよ」


こくんと頷けば、彼は満足そうに笑った。
彼の名前は遠山金太郎くん。シャツの下にヒョウ柄のタンクトップを着た赤髪の男の子で、初めは怖い人という印象が強かった。でも、ある時たまたま隣の席になって、転校してきたばっかりの私にも笑顔で積極的に話しかけてくれて、まだその時は馴染めていなかったクラスのみんなとのかけ橋になってくれた。いわば彼は私のヒーローだった。


「なぁ、てんは何お願いするん?」
『私?』
「おん」
『うーん……まだ全然決めてない。金ちゃんは?』
「わい?」


尋ね返すと、金ちゃんはにっこり笑った。私はその笑顔に思わずくらりとする。というか、みんな誰だってこうなるに決まってる。だってまぶしくてまぶしくてしょうがないし、故に彼はこのクラスのムードメーカーだし。


「テニスの試合が今度あるんやけど、それでわい絶対勝つ!ってお願いしよう思ってんねん」
『そういえば金ちゃんテニス部だったね』
「おん!わいのテニス部めっちゃおもろいで!わい大好きやねん!」
『そっかぁ……金ちゃんの大好きなテニス部、優勝できるといいね!』
「……おん!」


おおきに、と笑って、ぎゅっと手を握って近くの男子の輪に混ざっていく金ちゃん。
あーあ、今私の顔めちゃくちゃ赤いんだろうなぁ。やっぱり好きだ。最近気づいたけど、どうやら私は金ちゃんに惚れてしまったらしい。絶対言えるわけなんてないけど。でもちょっとだけ。ちょっとだけ私の想い伝わればいいのに。友達にもらったかわいいピンクの短冊にこっそり「金ちゃんに大好きが伝わりますように」なんて書いて恥ずかしくなって、私は読みかけの本に挟んだ。


* * *


あーあ、もうわいどないしたんやろう。さっきまではテニスのことお願いしよう思っててんけど、なんかやっぱりやめにしようかなんて思ってる。それもこれも掃除の時間にあの子の机を運ぼうとした拍子におちた本に挟まれたピンクの栞が原因なわけで。その栞に書かれた文字にぎょっとして自分のズボンのポッケに思わずつっこんだのはいいけど。


「どないしよ、これ」


まじまじと栞を見つめるけれど、それはまぎれもないあの子の文字。これがホントやったら、ほんまわいどないしよう。


「うれしすぎる」


いっきに顔に熱がたまって、にやにやしそうになる口を思わず手で覆った。熱い。なんだかふらふらする。そういやさっき握った手やらかかったなぁ、とか、笑顔かわえかったなぁとか。ついつい考えちゃってもうわけわからなくなってきてしもた。


「七夕なぁ……」


とかなんとか呟きながら屋上をあとにした。


* * *


『えっ』
「てんちゃんどないしたん?」
『あ、ごめん、なんでもない!』


えっ、えっ!?いやいやそんなまさか。嘘でしょう?
目の前に広がる殴り書きされた見慣れた大きな文字に私は思わず釘づけになった。
夢でも見ているのかしら。そう思ってほっぺたつねってみたけれど普通に痛くてもう一度びっくりした。


『夢じゃないんだ』


そう実感したら嬉しすぎて嬉しすぎてもうなんか涙出てきそうだった。
いつもいるはずの隣の席には今は誰もいない。
友達との一緒に帰る約束を放り出して、私は思わず教室を飛び出した。


『こ、ここに……いたん、だ』
「てん!?どないしてん?」


息も絶え絶え階段を上って、重たいドアをあければ夕方の涼しい空気が私を包んだ。放課後だからテニス部のところにいるかと思って部長さんらしき人に聞いてみたが来てないと言われ、必死になって学校中を探した。そうこうするうちにこの屋上にたどり着いたのだ。


『金ちゃん探してた』


金ちゃんはぴたっと固まって、そのあといたずらがバレてしまったと言うような顔で笑った。やっぱり、これは金ちゃんだった。私はそう確信すると、金ちゃんに一歩また一歩と近づいた。胸のドキドキがとまらない。


「なんや、気づくのはやかったなぁ」
『あの短冊やっぱり金ちゃんが書いたんだね』
「……おん」


お互い真っ赤な顔を俯かせて、ため息を吐くように話す。見られてしまった恥ずかしさと、想いが伝わってしまった緊張にただただ動けずにいると、金ちゃんがいきなり抱き着いてきた。驚きすぎて目を白黒させていると、金ちゃんの口がゆっくり開いた。


「あんな」
『えっ、うん』
「わいな」
『う、うん』
「ずっとてんのこと好きやってん」
『ずっと?』
「おん、ずっと。転校してきてからずっと。一目ぼれやってん」
『ええっ』
「だからこれ見つけてしもた時わいうれしくてうれしくてしょうがなかったんや」
『うん』
「せやから書いた」


少し離れて金ちゃんを見るといつものように笑っていた。ああ、本当なんだ。嘘とか冗談じゃないんだ。どうしよう。私もうれしくてうれしくてなんだか涙が出てきそうだ。ホントは一日早いけれど、どうやらお互い早く会いたい織姫と彦星は私たちの願いをかなえてくれたのかもしれない。
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