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あー気分わる。
確かにお酒飲みすぎたっていうのもある。でもそれ以上に隣に座ってきたあいつが気に入らない。
今日は大学のサークルの飲み会。
今日のために大量の課題やレポートを終わらせたし、かわいい服をかったり化粧もちゃんとして女子力磨いてきたのに。ぜんぶ、ぜーんぶあいつのせいで台無しだ。お酒を飲んでも気は晴れないし、寧ろイライラは募るばかり。そんなんでここにいても私も楽しくないし、みんなも楽しくない。私はトイレに行くと言って、そのまま店を抜け出した。あーホント気分悪い。


「先輩、帰るんすか」
『何』


あーあなんなのこいつ。
私は無視して、友人に帰る旨のメールを入れるため携帯に集中しながら歩く。それなのに、数歩後ろを飽きもせずついてくる。いい加減にしてほしい。もうほっといてよ。


「そないふらふら歩きよったら他人の迷惑っすわ」


ふらりと体が傾けば、肩を引き寄せられる。あーいらいらする。思いっきり手をふりほどいて歩きだせば小さく舌打ちが聞こえた。舌打ちなんて私がしたいわ。


「先輩」
『……』
「梓月先輩」
『……』
「なんで……っ!無視するんや!」
『あんたこそ!なんで……なんで光がこんなとこいんのよ……』


意味わかんない。私とあいつはもうずいぶんと前にさよならしたはずだったし、もう二度と会わないと思ってた。理由もわからず、ただ一方的に私の前から消えたくせに。縋る私の手を振りほどいた手が、今度は私の腕をつかんで離れない。
ああ、吐き気がする。


「……」
『ごめん、無理、今は光を傷つけることしか言えない、だから消える。光も私なんかほっといて飲み会に戻ればいいよ、せっかくの新歓なんだから』
「いやや」
『でも、私なんかといても楽しくないよ』
「いやや!もう、俺を……突き放さんで……」


つかまれた腕が熱い。突き放したのはどっちだ。今にも泣きだしそうな光の顔を見れば、つられて泣きそうになる。あの時のあの感情が再び戻ってきそうで、胸が締め付けられる。


「ガキやった、俺も先輩も」
『……』
「わからんかった、彼氏彼女なんて関係まったくわからんくて、いっぱい梓月先輩傷つけたって今も思っとる。もしかしたらこの先もずっと先輩傷つけたままずるずるとこのようわからん関係を引きずるのかと思うと怖かった」
『光』
「だから、だから一方的に先輩遠ざけたんっすわ」
『……バカじゃないの』
「せや、バカやと思っとる。バカやから、先輩のことずっと忘れられんかった」


あーあうるさいうるさい。
胸がざわついて周りの騒音でさえ掻き消えてしまう。もう私の耳には光の声しか届かなくなってしまった。


「先輩は?先輩はもう俺のこと忘れてしまったん?」


あーあ馬鹿じゃないの。
はやく気づけば?いや、もう気が付いてるのか。気が付いてたから、私と同じ大学に入ってきたわけだし、同じサークルにも入ってきたわけだし。全部全部あいつの計算なんだきっと。


『ねぇ、光』
「何ですか」
『自惚れてもいいの?』
「そんなん、あたりまえっすわ」


久々に見た笑顔は、何よりも眩しくて眩しくて、めまいがする。
あーあ、もうなにもかも、今まで思ってたこと全部吐き出してしまってもいいのかしら。
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