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ぞわり、とした。
それは今までに経験したことのないもので、私の背中には冷たい汗がつたうような感覚がする。
「感じてるんですね」
『だ、断定すんな』
見下した目が私をしっかりと捕らえた。その瞳の中の私は少しおびえた表情で、それでもこの男をにらんでいる。ああ、捕まってしまった。よりによってこの男に。くっとあがった口角にまた、ぞわりと体が震える。
「ほら、ここも」
『ん』
「ここも」
『っ』
「すごく熱いじゃないですか」
『日吉』
日吉の唇に次々にふれられた部分が焼けるように熱い。それでなくとも熱くて熱くてしょうがないのに。私の意思でもなんでもなくても目の端から涙が出てくる。ああ、気持ち悪い。汗をすった制服のシャツが肌にまとわりつく。
「昨日何の日だったか知ってます?」
『知らない』
「キスの日らしいですよ」
『だから何』
「昨日キスの日だというのに何もできなかったから倍返しです」
『い、意味がわからなっちょっ、やめっ』
ボタンを外そうとする日吉の手を必死で止めれば、意味が分からないという目で見てくる。それはこっちのセリフだ。それにこれ以上は駄目だと思う。私にとっても、日吉にとっても、取り返せないことになってしまう。分からないまま流れに乗せられて、ずるずると引きずって。そんなわけのわからない関係になるのは目に見えている。
目をつぶって、日吉の手を自分の頬にあてる。大きくて冷たい、でも綺麗な手。
『日吉』
「……なんですか」
『私たちってなんなの?』
「さぁ……ホントなんなんでしょうね」
と、言って目を伏せた日吉は、静かに、そして悲しそうに笑った。
それが苦しくて、苦しくてしょうがなくて、胸が焼けるように熱い。お互いの気持ちを無視し続けたくせに。あいつにも彼女がいたし、私にも彼氏がいたし。でもどんなに離れようと思っても離れられなかった。理由はわからない。わからないけれど。それなのにどうしても繋がりたいと思ってしまった私たちはやはり罪深き人間なのだろうか。