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「んー」
『な、何』
「いや?」


同じクラスで隣の席の一氏ユウジがさっきからなんかおかしい。
いや、お笑いセンスは素晴らしくて、可笑しい人であるのは知っていたけれど、残念ながらそっちのおかしいじゃない。
一氏が私を堂々とじろじろと見てくるのだ。なんか文句あるのか、と聞けば、「いや?」だの「んー」だのの繰り返し。いったいなんだっていうの。すごく気持ち悪いよ。


「よし」
『え、何!?何!?』


組んでいた手をといて、ぽんと手のひらをたたく一氏は、数度うんうんと頷いた。
え、本当になんなのめっちゃ怖い。
全力でびびってると、いきなり一氏に両肩に手をおかれて、心臓が口から飛び出そうになった。


「梓月、今度手伝え」
『は!?』
「だーかーら、手伝え言うとんねん」


意味がわからない。何を?何を手伝えというの?
頭にはてなまーくを浮かべていれば、何故かにらまれた。えええ理不尽!


「俺の漫才の手伝いや」
『はぁ!?』


というわけで、何故か漫才の手伝いをさせられることになった私は、休日にも関わらず買い出しに行くことになった。
なんという扱い。ただのパシリだ。凄くふざけてる。いつも賑やかなテニス部の練習がちょうど休みらしく、一人やとわからんやろうからついてったるわ、という上から目線で言ってきた一氏は、まだ来ていない。
まじあいつ何様のつもりだ。


「よぉ」
『わっ出た』
「出たとはなんや出たとは……わざわざ休みに出てきてやったんやから感謝せえよ」
『それはこっちのセリフなんですけど。何これ自分一人でいけばいいじゃん!』
「快く承諾したんはお前や」
『私がいつ承諾したというんだ!』


まぁええわ、なんて軽くスルーされた上に、先にさっさと歩きだした一氏にほんの一瞬どころかの話で殺意が湧いた。こいつ私のことなんだと思ってんの。前々から小春ちゃんにしか興味ないホモ野郎とは知っていたけれど、やっぱり小春ちゃんに対する接し方と、私に対する接し方では天と地の差がある。女の子に興味ないって本当だったんだな。


「ここや」
『えっ……ここって今女の子に人気な雑貨屋さんじゃない』
「……せや」


最近新しくできたというこのお店。雑誌でもよくとりあげられていて、売られている雑貨はオリジナリティのあるかわいい小物がいっぱいだと女の子たちの間で専らの評判だ。私も行きたいなぁ、と友達と話していたが、まさか一氏と一緒に来ることになるとはまったく思っていなかった。っていうか、もしかして私に手伝いを申し込んできたのはこれが原因?


『ねぇ、一氏、私に頼んだのって、このお店にいっぱい女の子がいるから?』
「なっ、うっさいわアホ!」
『ふうん、恥ずかしかったんだね』
「にやにやすな!死なすど!」


耳まで真っ赤になった一氏に、思わず腹を抱えて笑っていれば、思いっきり頭をぶっ叩かれた。女子の頭を平気で叩く男なんてどうかしてる。


「こ、小春がっ」
『ん?』
「いつも俺にようしてくれるから」
『うん』
「……なにかプレゼントしよう思っただけや」
『ふうん』
「な、なんやねんその顔」
『いや、微笑ましくて』
「くっそ……こいつに頼むんやなかったわ!」


自分の頭を思いっきりぐしゃぐしゃかいた一氏は気まずそうに俯いた。
うわ、何こいつめっちゃかわいい。こんなかわいいやつだったっけ。いつもは憎まれ口がポンポンと出てくるのに、今日はその口もあまりうまく使えてないみたいだ。


『まぁまぁ、そう言わずに。なあんだ最初っからそういえば普通についてったげたのに』


うっさいわと小さく呟いた言葉はいつもみたいな覇気がない。あーなんだかいい気分。


『それに、私がここに行きたいって言ったの聞いてて誘ってくれたみたいだし』
「なっ!?」
『じゃあ、一氏一緒に選ぼうか!』
「ちょ、おい!待てや!」


ずっと行きたかったお店だったし、なにより、いつもと違う一氏の一面が見れたので私をぱしったことを不問にしてあげようと思ったそんな一日。
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