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『真田』


廊下を歩く見慣れたその大きな背中に向かって名前を呼べば、少し驚いた顔が私の方へ振り向いた。
相変わらずの眉間のしわを携えた真田は、つかつかと私の方へ近寄ってきてくれた。


「なんだ梓月、俺に何か用か」
『今から真田に言わなければならないことがある』
「何をかしこまっているんだ」
『真田の真似』
「ふざけるな」
『すまぬ』
「梓月」
『もうー!なんだよー!せっかくいい感じに真田の真似できてたのにー!』


そう言えば、真田はよりいっそう眉間にしわを寄せた。
さらには様子を見守っていた幸村におもいっきり笑われたあげく、まったく似ていなかったねという感想をいただいた。
幸村まじ黙れ。
そんなことを思ってたらいきなりぺしんと幸村に頭をはたかれた。痛い。脳細胞死んだ。
いや、そんなことはどうでもはよくないけど、今は置いておくべきだ。
私は真田に言わなければならないことがある。
いったん大きく吸いこんだ息を吐いた。


『真田』
「なんだ?」
『実はさ……この前、真田ん家に行ったときに真田の大事な盆栽落としっちゃったんだ』
「え」
『あれ、行方不明になってたでしょう?』
「あ、ああ……」
『修繕しようと持ち帰ったんだけど全然だめで……ごめんね』
「……怪我はしなかったのか?」
『してないよ……本当にごめん』
「いや、別にかまわん」


手があたって落としてしまったそれは見るも無残なことになってしまい、持ち帰ったところで直すことなんてできなかった。
まず何故直せると思って持ち帰ったのかも今の私にとっては謎でしょうがないけれど。
なんだ梓月の仕業か、なんて言って真田は苦笑した。
その弱弱しい笑みに凄くいたたまれない気持ちになってくる。
大事にしていたのを見ていたから余計に。
後ろにまわしていた手をぎゅっと握れば、幸村がその手にそっと手を被せた。
ああ、そうだね、大事に扱わないと彼らはすぐに壊れてしまう。


『そこでね』
「?」
『はい、これ』
「なんだこれは……」
『カスミソウ』
「カスミソウ?」
『幸村に手伝ってもらって、一生懸命お世話して育てたんだ。ね、幸村』
「ああ」
「そう……なのか」
『こんな小さな花束じゃ代わりにならないだろうけど、受け取って欲しい』
「……」


真田は静かにそれを受け取ってくれた。
大きな真田の手に収まる小さなカスミソウ、なんだか不思議な組み合わせで思わず笑ってしまった。
まぁ、私が用意したんだけど。


『ね、真田』
「なんだ」
『なんでカスミソウだかわかる?』
「いや、わからん」
『それはね、カスミソウが5月21日の誕生花だからだよ』
「!」
『誕生日おめでとう、真田。これが一番言いたかったんだ、本当におめでとう』
「……感謝する」


そう言って頭をかいた真田も少し恥ずかしそうに笑った。



▼12.05.21 はっぴーばーすでー真田!
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