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ふと、私の知っている幸村精市はこんなやつだったか、と思う。
私と幸村は家が近所で、所謂幼なじみというやつだ。家族同士も仲が良く、私たち自身もお互いの家に行き来していた仲だった。(それも学年が上がるにつれて少しずつなくなっていったが)確かに長い間一緒にいたし、小さい頃の幸村のことを全部知っていると言っても過言じゃない。そう自負していたのも事実だ。
しかし、どうだろう。
私の知っている幸村は、優しくてたよりがいがあって、いつも私を見守ってくれている、そんなお兄ちゃんみたいな存在だったはずだ。なのに、今目の前にいる男は、私をベッドに組み敷いて、ギラギラと目を光らせて私を見ている。
ふいに動いた幸村の汗ばんだ手のひらが私の頬をなぞった。


『ゆき……むら?』
「……どうして?」
『幸村?』
「どうしててんは俺の名前を呼んでくれないんだ」
『っ、』


肩に顔を埋めた幸村は、首筋に沿うように唇を触れさせる。
怖い。私の知ってる幸村じゃない。


「お前の知ってる俺じゃないって言いたい顔だね」
『……』
「なんだ図星か」
『幸村怖い』
「だからなんで名前で呼ばないんだよ」


握りしめられた手首が痛い。
怒ってるのか、泣いているのか、よくわからない表情で幸村は私をにらんだ。


「俺は、お前に優しくするのを辞めたんだ」


何それ急にどうして?意味が分からない。
私が幸村のことを名前で呼ばなくなったから?
だって、しょうがないではないか。
昔っから幸村は女子に人気で、彼の周りにはいつもかわいい女の子がいた。今現在もなおそれは変わらないどころか、よりそれが増したと言ってもいい。そんな中で、私が彼のことを精市なんてなれなれしく呼べるはずなんてない。ましてや、声かけることも一緒にいることなんてすらできるはずもなかった。
それらが幸村本人の意思ではないこともわかってる。でも、彼の隣に並ぶにはあまりにも眩しすぎた。眩しすぎて、どうしようもなくて、彼の隣にいて一緒笑いたいのに、そんなのが許されないと思えてしまうほどに彼の隣にいることがつらかった。
だから私から離れた。少しでも楽になりたかったから。離れるために名前じゃなくて名字で呼ぶようになった。
ただ、それだけ。勝手に私が決めたことであって、何一つ幸村にも迷惑をかけていない。なのに、どうして目の前の幸村はこんなにつらそうに笑うんだろう。


「お前が俺のことを名前で呼ばなくなってからどのくらいたったんだろうね」


皮肉とも取れる言葉を私を見下ろしながら幸村は呟いた。
人間、変わらないはずがないんだよ。
幸村は恐ろしいほどに中身はそのままだけど、外見は凄くかわった。周りが騒ぎ立てるほどにかっこよく。私だって人間だから変わってしまう。それは自分には止められないことで、寧ろそれを受け入れて前に進まなくてはならない。


「お前は……てんは俺のこと嫌い?」


昔の私だったら、素直に好きって言えてたかもしれない。幸村の大きな手をとって、綺麗に笑えてたかもしれない。でも、もうなにもかも遅すぎた。私の中で好きが加速しすぎて、なにもかもすべて歪んでしまったから。もう昔の幸せだけの愛を取り戻すことなんてできないから。


『……嫌い』


私はそう言って、笑った。




歪んでしまったが故の結末




(この歪みきってしまった愛を受け止めるにはあまりにも負担が大きくなりすぎてしまったから)
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