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朝、私はめったに行かない駅近くのコンビニに寄った。
雑誌やジュース、お弁当には目もくれず、一直線に向かった先はお菓子コーナー。その中でもひときわ目立つPOPの書かれた箱を手に取る。
ああ、もう後光が見えるように眩しい!!


『「新作、きたー!!」』


あれ……今声がはもったような?私の横から、もう一つ腕が伸びていることに気付いた。誰だよ私の邪魔をするのは。横をちらりと向けば、きらきらと目を輝かせて新作のそれをつかみ持っている男の子がいた。制服を見ると、あの有名な氷帝学園の生徒のようだ。ぶっちゃけそんなことはどうでもいい、私はこの新作のポッキーに用があるのだ。そう、用があるというのに、新作ポッキーひと箱しかないのに、伸びてる手は二つ。そして、相手は手を放す様子どころか私の存在にも気が付いていないらしく、ポッキーを自分のものとすべく引っ張ってくる。ふざけんな、まじでふざけんな。私が先に手を出したのに。さらにいえば今日この日のためにここ最近のおやつを我慢してきたんだっつの。


『……あの』
「やべやべすっげー!なにこれシュークリーム風味!?意味わかんない!で超うまそうだC〜!」
『あの』
「やっぱ新作ポッキーすっげー!!待ってたかいあるよね!!」
『あのっ!』
「ん?あれ?」
『この新作ポッキー私が先に取ったんですけど……』
「えー?でもこれひと箱しかないC〜」
『だから他あたってください』
「なにそれひっでえ!」


私の隣で地団駄を踏みながらぎゃーぎゃーとうるさい。ちょっとここコンビニなんだけど。うるさいんだけど。


『ちょ、静かにしてください』
「だって!俺!今日!これだけを楽しみに!睡眠も控えて!買いに来たんだC!?」
『いや、そういわれても私にはなんの関係もないです』
「うわー最悪だC〜」
『それじゃあ』


そう言って、私はポッキーをしっかり持ち直し、レジへと向かう。恨みがましく私を見つめる視線にちょっと罪悪感がないと言ったらウソにはなるけれど、この世は弱肉強食、早いもん勝ち。先に手にした方が勝ちなのだ。世の中はそんなに甘くないのだよはっはっは!なーんてレジまで数歩のところまで考えていたのだけれど。


「あーあ……せっかく誕生日プレゼントにしようと思ってたのに」
『……』
「食べたくて食べたくてしょうがないっていうから、頑張ってお小遣いためて、ちょっとリッチな新作ポッキー買おうと思ってたのに」
『……』
「お小遣いためるのに、丸井くんの練習見るのも控えたのに」
『っだーもう!丸井くんとか知らないけどさ!何ぐちぐちと!』
「だって……」
『あーもういい、ほら』
「え?」
『これ、譲る』
「えっ」
『譲るって言ってるでしょ!新作ポッキー』
「いいの?」
『今のあなたの言葉で罪悪感はんぱないんだよ』
「まじまじ!?うっれC〜!!ありがとう!!」


差出したポッキーを私の手から奪うように取って、男の子は私があと数歩で届かなかったレジに向かった。
あーあ、残念。私ってばなんてお人よしなんだろう。楽しみにしてたのは私も同じなのにね。また他のところで探そう。もうここのコンビニには用なんてないや。そう思って、自動ドアをくぐれば、後ろからさっきの男の子が、大きな声で呼び止めた。


「あのっ、これありがとう!」
『別に……お誕生日の子によろしく、っていっても面識ないし意味ないか』
「ん?ああ!」
『?』
「誕生日なの、俺なんだよね」
『……はぁ!?』
『ごめんっ!でも今日はとっておきの誕生日になったC!』
『はは……そう……』


何それ。誰か友達の誕生日プレゼントかと思ったら、自分のだと。
もうなんだか脱力。私の決死の覚悟なんだったんだ。こんなに泣きたくなったの初めてだよ私。あーあ、君は最高の誕生日になったかもしれないけど私には最悪の日になったよ。ため息を吐いて、じゃあね、ともう会うことのないだろうその人に手を振って去ろうとすれば、何故かがっしりと制服の裾をつかまれていて。後ろを振り向けば、にこにこと笑った顔が間近にあって驚けば、口の中にほんのり甘い味がひろがった。


「一本あげる」


そう言うだけ言って、男の子は手を振って走りさっていく。
ああ、なんだろう。最後のはちょっと反則だと思うんだけど。
もごもごと口の中のポッキーを噛み砕けばほんのりとシュークリーム味がした。初恋はなんとかの味というけど、私の初恋の味はシュークリーム味かもしれない、そう思った。


12.05.05 はっぴーばーすでー!ジローくん!
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