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「なーなー梓月」
『なんすか、向日先輩』
「あれなに」
『知りませんよ』


今私とこの変な、いや特徴的な前髪をしている向日先輩の目の前にはおかしな光景が広がっている。


「今失礼なこと思ったろ」
『いいえまさか』


まぁ、そのおかしな光景っていうのは、だいたい誰のせいなのかは想像がつく。
この学園で知っているものは誰もいないという、あの人だ。
そう、跡部景吾だ。


「なんやあれ」
『あ、侑士さん』
「侑士じゃん」
「また跡部かいな」
『それしかないでしょう』


侑士さんは物憂げにため息をついた。
ついでに私も向日先輩もついた。
っていうかつきたくもなる。
だって、テーブルの端から端までお菓子でうまっているんですもの!
誰だ、おかしな光景とお菓子な光景でうまいこと言ったなとか言ったやつ。

「誰も言うとらへんわ」

しかもテーブルに置かれているのはミルフィーユなどといったようなお上品なお菓子ではなくポテチとかうんまい棒とかそういう類のものだ。
何処までも期待を裏切らない人だ。
別になんの期待もしていないけれど。


「おお、お前らいいとこに来たじゃねーの」
『すいません私用事が』
「まぁ待て、梓月」


くるっと回れ右した私の襟首はまんまと跡部先輩に掴まれてしまった。
だめだ、もうこの男から逃げることは不可能だ。
心なしかいつもの不敵な笑みが嬉しさ満点の笑みに見える。
むりだ、もうこの男を止めることは誰にもできそうにない。


「覚悟を決めろよ、梓月」
『3年間よくこんな人と付き合ってこれましたね、向日先輩。私尊敬しますよ』
「くそくそ!そんなことで尊敬すんな!」
「なぁ、跡部、これどないしたん?」
「買ってきたに決まってるじゃねーの!」
『跡部先輩が駄菓子屋さんに行ったっていう事実だけでもうお腹いっぱいです』
「こないな高慢な態度で駄菓子買うやなんて、寧ろそっちのが見たかった気ぃするわ」
「というわけで、俺は庶民の味を試してみたいと思う!」


だと思ったよ。
そんなの勝手にやれよ、と思ったが、いまだに襟首は掴まれたままだ。
多分これから、跡部先輩の試食の感想をただひたすら聞くことになるだろう。
仕方ない、どうせ余ったらこの人のことだからくれるに決まってる。
それだけが楽しみだ。


「さぁ、俺様のお菓子試食会始めようじゃねぇの!」


跡部先輩お得意の指ぱっちんがいつもよりキレをまして、学園中に高らかに響いた。
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