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まぁ、なにやってるか言われたら、別に何もやってへんのやろなぁ。ただ単にぼーっとしとっただけやし。ぼーっとはしとったけど、さっきからとある女子が気になってしゃーない。誰やっけ、あんま見たことない顔やなぁ。同じ学年かすらもあやしいわ。
「自分、何年なん?」
そわそわと廊下を行ったり来たりしとるその女子に、なんとなーく声を変えてみれば、びくりと肩が震えて、ゆっくりとこちらを振り返った。ふうん、結構かわいい顔しとるやん。美人とまではいわへんけど、それなりに人気ありそうな顔やん。まじまじと女子の顔を見てやれば、ひくりと女子の頬が引きつった。その女子の名前は梓月てんというらしい。ちなみに1年生という話。どおりで見たことなかったわけや。さらに話を進めると、どうやらこの梓月さんは校外活動委員らしく、その委員会の仕事でこの3年のクラスを行ったり来たりしているらしい。
「って、校外活動委員っていったら、宍戸とジローやんな?」
『知ってるんですか!?』
「知ってるも何も……二人ともテニス部やで」
『テニス部……じゃあ、先輩もテニス部なんですか?』
「自分、俺のこと知らんの?」
『ご、ごめんなさい』
ふうん、この学校にも俺のこと知らんやつなんておるんやな。ちょっといらっときたけど、それはそれでなんやおもしろいな、なんて思う。まぁ、それはええわ、なんて、全然よくないんやけど梓月さんに言って、話の先を促した。
『最初、芥川先輩探したんですけど、どこにいったかわからないって聞いた人みんなに言われてしまって……』
せやろなぁ。あいつを見つけれるんは樺地ぐらいやないやろうか。ふらふらと寝心地いいところを求めて彷徨う、あいつの悪い癖や。
『それで、次に宍戸先輩を探そうと思ったんですけど……ほら、宍戸先輩ポニーテールじゃないですか』
「で、そのポニーテールを目印に探そう思ったんやな?」
『はい……』
「そりゃ見つからんのも道理や」
『えっ』
「宍戸、髪の毛切ってんで」
『ええっ!?』
なるほどなぁ。そりゃ何度もこの廊下を往復してたわけや。納得納得。まぁ、あの二人を見つけることができんかったおかげさんで、こうやって梓月さんの名前を知るだけでなく、話すこともこともできたわけやし、あいつらには飴ちゃんでもやっとこかな。俺のこと知らんやったとしても、これから存分に知ってもらえばええことやし。これが、お近づきの一歩になれば、ええやんなぁ?
「俺が二人のところ案内したるで」
『本当ですか!?えっと……』
「ああ、せやった、名前教えとらんかったな」
(忍足侑士、言いますねん)
(これから永遠によろしくやで、梓月さん?)