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愛してるって言葉以上に愛してるなんて簡単に伝えることができればどんなに簡単だろう。目の前の彼女は何も知らない。僕が彼女をどう思ってるかなんて知らないからこそ、彼女はこんなにも僕のことを翻弄させる。楽しそうに笑う顔も、真剣に悩む顔も、哀しそうに泣く顔も、何も知らないから簡単に僕の前でさらけ出してしまう。ああ、本当になんて罪な……。


『不二くん』
「……」
『不二くん?』
「ん、あ、ああ、ごめん」
『大丈夫?』
「ちょっと考え事をしていただけだよ」
『そう?』


ああ、ほらこうやって心配そうに顔を覗き込ませるのも、僕の気持ちを知らないから。今にもその唇を奪い去ってしまいたいなんて思ってるなんて知ったら、彼女はなんて思うだろうか。いや、僕は寧ろ唇だけでなく、彼女ごと奪い去って、どこか深い深い誰にも見つからないような場所に閉じ込めておきたいなんて思ってる。そんなの僕自身ですら人としてどうかと思う行為だけれど、それほどに僕は彼女を愛してる。


「ねぇ、梓月」
『何?』
「……好きだよ」
『え?』
「……ううんなんでもない」


思わず吐き出す息とともに口から出てしまった言葉に急いで蓋をして、俯いた。聞こえていなければいい。何も聞かなかったことにしてくれればいい。僕が言ってしまったことなんて知らないふりして忘れてしまえばいい。


『私も』


だから、そんなことを言わないでほしかった。頬を赤らめて、にっこりと笑ってそんなことを言わないでほしかった。僕と彼女が同じ気持ちだと知ってしまったからには、もう僕は止まることなんてできないから。
だから。


「さようなら」


(僕につかまってしまう前に)
(彼女の僕への愛がなくならないうちに)
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