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『ねぇ、これなに』
「なにって……見たらわかるやろ」
『いやわかるけどさ……』
「なら聞くなっちゅー話や!」


もう部活もなにもなくなってしまった放課後、謙也に手をひかれつれていかれたのは部室前。
夏ぐらいまで毎日通っていたそこは相変わらずで、懐かしさに浸ろうとしたのに無理だった。
呆然とする私の目の前には見慣れた流しソーメンセットがしっかりと設置され、私と謙也以外の部員が全員いつもの定位置についていたからだ。


「謙也さん、てんさんはよこっち来てくださいよ」
「せやで!二人がはよ定位置につかんと始められへんわぁ!」
「てんこっち来たらええわ!ちょうど俺の隣あいとるで?」
『え、や、うん……え?私も参加な感じなわけ!?』
「そうよぉ!寧ろてんちゃんがおらな始められへんわぁ!」
「小春浮気か!?こないな女ほうって俺の隣来てや!」
『ユウジは後で滅ぼすとして、私がいないと始められないってどういうこと?』
「いいからいいから、ほらてんはやくこっち来なっせ」
「てんはん、こっちに」


千歳と師範に背中をぐいぐい押され、白石の隣に座らせられる。すると、全員は見計らったように目配せをしあった。え、なにこれなんなの?私だけが頭にはてなマークを浮かべている。


「お、みんな揃ったかー?」
「オサムちゃん、揃ったで!」
「そんじゃ、梓月お疲れさん会いっちょ始めるか!」
『……は?』
「せやから、梓月お疲れさん会」
『えっ……何それ?』
「そのまんまの意味やで!」


ちょっと待って、よくわからない。私のお疲れさん会?未だはてなマークな私は首をひねっていると、隣の白石が私の両手を握ってぐいっと引っ張って立ち上がらせた。そしてそのままぎゅっと抱きしめられた。え、なにこの状況、あれれ。それにつられたのか、ずるいだのワイもだのと言いながらみんながみんな私に抱き着いてきた。なんだこれ。


「てん、3年間俺らのマネージャーとしていろんな仕事してくれてありがとな」
『えっ』
「ちょっとどんくさかったですけど」
「それ含めてんの一生懸命な姿見てたら、なんやしたくなったっちゅー話やで!」
『……なに、それ』
「毎日私らのお笑いに笑ってくれたんめっちゃ嬉しかったわぁ!」
「小春が言えいうから仕方なくやからな!3年間ありがとな!」
「初めて会った頃が懐かしいったい」
「はんば無理矢理やったけど、3年間こなしてくれて本当に感謝しとる」
「せやから、今日は祝わせて欲しいんや」
「って、何泣いてはるんですか」


財前に言われるまで気づかなかったけれど、私の目からは大量の涙があふれ出していて、視界がぼやけた。
ああ、なんだこれ、もうホントになんなのこれ。
ぶわぶわと出る涙は止まるどころの話じゃなくなってきた。
ああ、もうホント嬉しい。この3年間でこんなに嬉しいことはなかったっていうぐらいに嬉しい。ただ私はみんなの姿を見てきただけだし、それらしいことも何もできなかったというのに。


『……わ、私、もらってばっかじゃん……っ』


本当にもらってばっかだ。嬉しいことも、悲しいことも、楽しいことも、つらいことも、なにもかもすべてくれたのは彼ら。私はただ受け身な存在だったというのに。千歳の大きな手が私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。ほら、こんなところも。彼らの優しさに甘えてきたのは私なのに。


「そんなことなか。俺らはいつだっててんの頑張っとる姿見てきたばい」
「それに励まされて俺らも頑張れたんや」
「てんさんおらんかったらこの部なりたってなかったっすわ」
「ワイ、てんと一緒におるん、すんごい楽しかったで!」


にこにこと笑ってるみんなと対照的に私は大号泣。そんな私によりいっそう笑みを深めるみんな。ああ、幸せってこういうことを言うんだなぁ。


『みんな、ありがとう大好き!』


笑えてるかわからないけど、お腹の中から声を大にして叫べば、みんな大声で笑って、泣いた。好き、本当に大好き。3年間みんなと一緒にいれてよかった。


「おーい!みんな!ソーメン大量買いしてきたで!」
『誰だっけ』
「小石川たけじろうさんやで、てんちゃん」
「ちゃうわ!小石川健二郎や!」
『うそうそ!ちゃんと覚えてるし!』
「さぁ、流しソーメン始めるで!合言葉はー?」
「「「「「「「「「『食ったもん勝ちや!!!!!』」」」」」」」」」


▼12.04.10 四天の日!
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