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『あづー』
「なんでこないに暑いんや」


そりゃまぁ、夏だから、と人は言うでしょうけど。その夏にしても暑すぎてたまらん。無理、この木陰から出ることなんて私には不可能。


「なぁ、梓月」
『何よ謙也』
「えーと、あれや、ジュース!ジュース買ってこいっちゅー話や!」
『はぁ?』


なにこいつ。なんで私に命令してんの、へたれのくせに。
へたれは余計や、なんて言われたけど当然無視してやった。どこをどう見てもへたれだろうが。


『なんで私なの』
「だって梓月やし」
『意味わかんない』
「わかれや」
『無理』
「じゃああれや、じゃんけん」
『よっしゃやったろ』


というわけで、じゃんけんをした。私はチョキ、謙也はパー。やったね。これで私はこの木陰から出る必要はなくなった。
自分の出した手を見てぶつぶつと言いながら謙也はしぶしぶとあの炎天下に出て行った。そういやここから購買までどんぐらいの距離があるんだっけ、と思ってたのもつかの間、案外早くに謙也は帰ってきた。流石自称浪速のスピードスター。へたれだけどこういう時便利だなぁ。そう思って手を差し出せば、はぁ?という顔で見られた。
え、なにその顔。
構わず手を差し伸べるけれどその手に乗る重さはないわけで、さらに言えば、謙也の手にあったペットボトルはぷしゅうという音を立てて蓋があけられた。そして、そのペットボトルの飲み口はそのまま謙也の口元にすいこまれ、ごくりと喉が上下した。
なんで?という顔で呆然と謙也を見上げれば、誰がお前の分まで買ってくるなんて言うた、なんて言われた。
くそ、まじこいつ使えねえ。へたれだけでなく使えない男だったか、なんていえば、頭をはたかれた。痛いまじふざけんなよ。


「せっかく人が恵んでやろう思とったのに」
『え、何くれんの』
「ほら」
『わぁい!って、あ!』


私の手に握られるはずだったペットボトルは私の手をすりぬけて、再び謙也の口元に持って行かれた。ふふん、とドヤ顔でこっちを見られた。くっそむかつく。
あーあ、結局飲めずじまいか。仕方ないから私も炎天下に出て、買ってこよう。そう思って木陰から一歩足を出すと、謙也に思いっきりぐいっと引っ張られた。と思ったのもつかの間、少し開いた口から液体が流れ込んできて、思わずごくりと飲み下した。


『……ぬるい』
「ぬるい?じゃあ、もっと熱くしたる」


妙に熱っぽい目で至近距離で見つめられ、私の中の何かが渦巻いた。謙也の指がほほに触れれば、そこから全身に熱がまわる。ああ、もうなんだかふらふらする。それもこれもこの暑さのせいだ。再びふれた唇のせいで火傷しそう。時おり口から漏れ出る吐息が甘ったるい。あーあ、なんで謙也なんかにドキドキしてるんだろう。やっぱり暑さのせいだよ。あー暑い暑い。でも今はこの暑さのせいにして謙也に身をゆだねていたいです。
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