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あなたは春が好きですか?
と聞かれれば、私は好きでもあるし嫌いでもあると答える。それは何故かと聞かれれば、出会いと別れの季節だからというしかない。


『ずっと好きでした』


あなたに出会えた1年前の春、私は確かにこの季節が愛おしくてたまらなかった。この一瞬がずっと続きさえすればいいと思った。1年がずっと春でもいいと思った。


『ずっと、ずっと好きでした』


でも、あれから1年たった今は違う。切なくて苦しくて、胸がぎゅうっと痛んでいる。こんな季節去ってしまえばいい、いや、来なければよかったのになんて思ってる。目の前に広がる桜色が忌々しいと思えるほどに。


『謙也先輩、行かないでください』


かすんだ声で呟けば、先輩の手が私の頭を撫でた。


「ええ子やから、泣くな」


ゆっくりゆっくり言い聞かせるように先輩の口から紡がれる言葉はじんわりと私の中に馴染んでいく。
ええ子なんかじゃない。ずっと我儘ばっかり言ってきた。ずっと困らせてきた。なのに、だというのに、先輩は優しい。その優しさがずるい。


「そんで、好きでしたなんて過去形になんかすんな」


俺死んだ人みたいやんかなんて言って、悲しそうに笑う先輩を見ていたら、鼻の奥がつんとして、視界がぼやけてきた。切なくて苦しくて嬉しくて愛おしくて。


「また会いにきて、お前にぎょーさん俺のコレクション見せたるわ」


にっと笑った先輩に、思わず涙がこらえきれなくなって泣いた。思いっきり泣いて、思いっきり自分の想いしゃべって。自分の想いを受け入れにせよ、応えてはくれないことを知りながら。


「またな、てん」


縋りつくことさえ許されないまま、走り去る謙也先輩の後姿を見つめながら、私はその場でずっと泣き続けた。
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