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「暑いのう」
耳元で呟かれた吐息交じりの言葉に思わず肩をはねらせれば、にやりと仁王は笑った。
いきなりどうしたの、と聞けば、暑いのうとしか言わない。暑い?今まだ春まっただ中だというのに?あったかいの間違いじゃないの?
心なしか、いつも以上にぼんやりとしている仁王の顔を覗き込めば、髪をぐいぐいとひっぱられた。ちょ、痛いんだけど。
「俺暑いの苦手、無理」
『へぇ』
「そこはまさきゅん大丈夫?って心配するところじゃろう?」
『なんで』
「ええー」
まさきゅん超さみしい、とかかわいこぶって言われたけどぶっちゃけかわいくない。っていうかきもい。顔近い。口を尖らせつつ、ピヨとか言うもんだからだいぶ脱力した。
『なんか私もだるくなってきたわ』
「じゃろう?」
『じゃろうって……さぼろうかなぁ』
「うっわ梓月さん不良ー」
『仁王くんには言われたくないですね』
眼鏡をあげるフリをしてそういえば、似てないと一刀両断。めっちゃ厳しくないか。別にガチでやってるわけじゃないし。仁王と同じように口を尖らせれば、ぶっさいくじゃのうと言われた。お互い様だ。
『っていうか、なんか仁王くさい』
「なんのことだか」
『香水くさい』
「いい匂いと言ってくれんか」
『私その匂いやだ』
思いっきりしかめっつらをすれば、仁王は仁王で私の鼻を思いっきりつまんできた。お前やめろ鼻が取れるだろ。
っていうか昨日とは違ったな、香水。また違う女の子か。毎日とっかえひっかえ、いい加減飽きないんだろうか。ホント、よくやるよね仁王も仁王にすがる女の子たちも。いい加減中学生らしい恋愛すればいいのに。
と言っても中学生らしい恋愛すらわからない私が言うことじゃないけど。
「じゃあ、どの匂いならええんじゃ」
と聞かれても。そんなの私だってわからない。ただその香水の匂いだけは嫌。そういえば、ちょっとだけ目を伏せた仁王は、次の瞬間にはいつもの意地悪い笑みを浮かべた。
「お前さんの匂い俺は好き」
(だからお前さんの匂いでいっぱいにして)