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「先輩、好きな人おるん」
『いないけど』
「なんやおらんのですか」


あからさまにつまらないという顔をした財前くんは部誌をかいてる私の目の前に座って頬杖をついた。
うわ、何考えてんのかわかんない。
いつにも増して無表情な財前くんはため息をついた。え、それはなんのため息なの。


「じゃあ、付きおうとる人は?」
『いや、いないし』
「ああ、もしかして、あれですか、セフレとかおるんちゃいます?」
『中坊がバカなことを言うな』


ふーん、とたいして興味なさそうに財前は答える。
え、なんなのその微妙な反応。質問してきたのはそっちなのに。なんだかこのままいくとますます財前くんのペースに乗ってしまいそうで怖くなったので、私は再び部誌に目を戻す。


「あ、てん先輩」
『今度は何』
「いつも何食ったらそないな体になるんです?」
『うわ……余計なお世話』
「和食ですか、洋食ですか?」
『ん……んーと割と洋食派かなぁ……ハンバーグとかオムライスとか大好き』
「子供ですね」


なにこいつまじうぜえ。いい加減私に部誌を書かせろ。
私が部誌に目を戻すたびにいろいろと話しかけてくる。
やだもうなにこれ今日の財前くんめちゃくちゃめんどくさい。


「てん先輩」


何、と答えようとして、顔をあげれば、部室にたった今入ってきた白石くんと目があった。ちょいちょいと手招きをされて近寄れば、今度の試合についての資料を渡された。


「これなんやけどな、ちょっと不備あってん」
『え、まじでか』
「せやから、俺が直しとったから心配せんでええで」
『うわぁ……ごめんね、部長にこんなことさせちゃって』
「ええねん、ええねん!」


ああもうホント白石くんは誰かさんと違ってさわやかで素敵できらきらで優しい。
彼の笑顔にこちらも自然と笑顔になって話す。
ホント誰かさんと違って、いい人。そう思っていれば、がたっと立ち上がる音。その音に振り返れば、なんだか怒ってるような、いつもと変わらないような……でもなんだか怖い顔の財前くん。がっと握られた手首が痛い。ちょ、待って、骨折れる。


「人がアプローチしとるのに他の男と話すんなや」


え、何アプローチしてたの。あれのどこがアプローチなの。
思わず、はぁ?という顔をしたら思いっきりほっぺたをつねられた。なんなの痛いんですけど。それが先輩にする行為なの。
あらら、と口元を抑えた白石は、お邪魔しましたなんて言って部室から出ていく始末。
俺以外に笑うな、なんて言われて、獣になってしまった目の前の男にあっさりと喰われるのを助けてくれるやつなんてどこにもいなかったし、そもそも助けてくれなんて誰も頼んでいない。だからと言って、そう簡単に好きだなんて言ってやらないと心に決めた。



(嫉妬する財前の顔をずっと見ていたかったとか)
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