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「あ、あっれー梓月先輩偶然じゃないっすか!どっか行く途中ですか?」


前から現れた人物に私は思わず、顔をしかめた。
にこにこと笑いながら、私のまわりをぐるっと一周する。


『わざとらしいよ、赤也くん』
「やだなー!そんなわけないじゃないですかー」
『さっきの休み時間も渡り廊下であったじゃない』
「偶然っすよ、偶然!」
『いや、その前の休み時間も、これまたその前の休み時間も、はたまた靴箱でも、ましてや登校中にも……会ったけど?』
「うっ」


そうなのだ。
たまたま男子テニス部に用事があって部室を覗くと、もちろんこの赤也くんもいた。
ただちょこっと事務的なことを話しただけなのに、それ以来こうやってばったりと会うことが多くなって、次第にその回数も増していった。
いったいこの子は何を考えているのか、逆立ちしたってわからない。逆立ちできないけど。


『そして多分このあとの昼休みと、休み時間、放課後、下校って感じで多分会うんだろうね』
「やっぱり、梓月先輩は侮れないっすね……でも多分今日は下校には間に合わないと思います!」
『え、ドヤ顔で宣言された!』
「いやぁ……実は英語のテストのやり直しがあって……俺、英語苦手なんすよね」
『はぁ、そうなの』
「あ、すみません、呼び止めちゃって!それじゃ俺そろそろいくっす」


そう言って、すたすた走っていこうとする赤也くんのシャツの袖を私はいつの間にか握っていた。
ぎょっとした顔で赤也くんは私を見て、ぼっと顔を赤くした。


「な、なに、せ、梓月先輩、えっ、なにを」
『うん、私にも今の自分の行動はちょっとわからないんだけど』
「ええ!?」
『とりあえず、テニス部の練習につかえない程度に、英語教えてあげようか?』
「へっ……」
『いや、私もそこまで得意なわけじゃないんだけど』
「ほ、ホントですか!梓月先輩いいいいいいいい!!」
『君さえよければ』
「そんなん全然いいに決まってるじゃないっすか!」


目をきらきらと輝かせて、私の手を両手でぎゅっと、赤也くんは握った。
口からはずっとうれしいなぁうれしいなぁ、を呟きながら。
まさかこんなに喜んでくれるとは思ってなかったから、少し恥ずかしい。


「先輩ありがとうっす!ホント大好きっす!」
『はぁ、どういたしまして』
「あーもう!先輩反則!こういうのツンデレっていうんすよ!」
『いや、ちょっと違うと思う』

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