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「俺、てんを食べたい」


と、同じクラスの丸井ブン太に言われたとき、私は、は、と息の発展みたいな言葉しかでなかった。ごめんこの人何言ってるのかわからない。私と同じ人間だったと思ったんだけれど、それはどうやら間違いだったのかもしれない。だって人間が人間を食うってのは常識的に考えてみるまでもなくおかしい。いや、そりゃここが極寒の山頂で凍死寸前でやむを得ずという状況ならおかしくないかもしれないけれど、ここは教室、さらにいえば真夏の放課後だ。


「なぁ、いいだろぃ?」


手に持った本を置いて、丸井ブン太の目を見れば、あまりにも真剣な眼差しすぎて言葉が喉につまりそうになった。え、この人本気なの?大丈夫なの?主に頭。


『……君は私をバカにしとるのかね』


バカにしてるとは思えないほどの真っ直ぐな視線に思わずこう言った私もちょっと暑さに頭が湧いてたのかもしれない。これがバカにしてる人の目かよ、と言われれば、そうですよねーと答えるしかなかった。もうだめだ、なにもかも真夏のせいにしてしまいたい。頭がまわらなくなってきた。


「で、お前はどうなんだよ」


はぁ、この人はもう何をおっしゃっているのでしょうか。お前はどうなんだよっていったいどういうことなのでしょう。もうわかりません。私にはわかりません。幻聴だったらいいのに。真夏の蜃気楼的な感じで真夏の幻聴とかほらあるのかもしれないし。


「お前は俺を食べたい?」


ああ、うん、きっとそうだよ、食べたい食べたい。私も丸井ブン太のこと食べたいんだよきっと。夏だからね。真夏の幻聴でこれもきっと変換して相手に聞こえるんだ。


「なんだ、俺とてん同じ気持ちだったんじゃん」


途端ににっこりになった丸井ブン太が唇にかみついてきたとき、ああもうそんな真夏の幻聴なんてあるわけないじゃないのよばかじゃないのと思うのなんて、あとの祭りだって話ですよね。
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