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『宍戸ー』
「なんだ梓月か」


満開にほど遠い桜の木の下に座っていた宍戸の隣に私は腰をおろした。練習が終わったばっかりなのかなんなのか、宍戸のほおを汗が伝っていった。少し陰になった木の下は涼むにはちょうどよく、風がほどよくふいて気持ちがいい。宍戸も同じ気持ちなのだろう、木の幹にもたれかかって目を閉じている。


『私たちもうすぐ卒業だってさー』
「そうだな」
『また新しい生活が始まるんだね』
「そりゃあな」
『……3年間、いろんなことがあったね』


この3年本当にいろいろなことがあった。
幼稚舎から一緒だった、宍戸にジローくん、向日は相変わらずだったけれど、これに忍足や滝くん、さらには跡部まで加わって、にぎやかを通り越して騒がしかった。2年になれば、樺地くんや長太郎、日吉とさらに騒がしさが増した。あきれることもあったし、むかつくこともたくさんあったけれど、なんだかんだいってすごく充実していたと思う。楽しかった、本当にこの3年間、楽しかったとしか言い表せない。


「なぁ、梓月」
『んー?』
「俺達は変わらないよな?」
『あったりまえじゃん』
「じゃあよ、なんで黙ってたんだ?」


真剣な顔でこちらを見てきた宍戸に思わず、視線を下げた。なんだ、聞いちゃったのか。


「お前、黙って行くつもりだったのかよ」


本当は黙って他の学校に入学するつもりだった。でも、隠しきれてなかったんだな。私のちょっとした態度の変化に気付いて、跡部が調べたらしい。跡部に言われたことと同じことを宍戸にも言われてしまった。


「なんで言ってくれなかったんだよ」
『言わなくてもいいかなって』
「んだよ、それ……」
『残り少ない時間を変わらず過ごしたかったから』
「これから高等部、大学とまた一緒に楽しくやれるとか期待してた俺がバカみたいじゃねぇかよ……激ダサだぜ」
『……ごめんね』


小さくため息を吐いた宍戸は、手を頭にのせてきて、軽くぽんっと叩いた。それがあまりにも優しすぎて、あたたかすぎて思わず泣いた。真実を言って、何かが変わってしまうと思った私が間違っていたんだ。桜の花びらがひらりひらりと私の目の前におちた。


『ねぇ』
「なんだ」
『卒業式の日にさ、第二ボタンちょうだい』
「!」
『だめかな?』
「そんなんでいいのか」
『うん』
「じゃあ、かわりに……」


手首をひかれて、バランスを崩した私は思わず宍戸に倒れ込み、いつの間にか腕の中にいた。そして、耳元でささやかれた言葉に、また涙があふれ出た。



「お前が欲しい」



(これでいつだって変わらないままでいられるだろう?)
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