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『寒い』
「まじばっかじゃねぇの」
『向日先輩には言われたくないです』
「くそくそ!いつも通りに超うぜえ!」


現在夜9時すぎ。
3月もなかばとはいえ、夜中は凍えるように寒い。
いったい昼間の暑さはどこいったんだと、なんだか憎らしくなってくる。
そして、そんな時間にどこにいるのかと言えば、学校の目の前である。


「で?なんなんだよ用って」
『いや、向日先輩には用はないです』
「はぁ?」
『用があるのはこの学校に、です』
「意味わかんねぇ」


そういった向日先輩の顔がおもしろすぎて思わず笑ったらぶん殴られた。
おい、私女子だぞ、容赦ねえ。
ポケットに手を突っ込んで校門にもたれかかった先輩はちゃんと説明しろよ的な目線をよこしてきたので、しょうがないので説明してあげることにする。


『いや、実はですね、学校に忘れ物しまして……それで取りに戻ろうと思って』
「いってらっしゃい」
『いってらっしゃいじゃないんすよ!バカじゃないですか!』
「えっ、ええー?」
『ホント、バカ!向日先輩のバカバカ!』
「くそくそ!バカ連呼すんな!」
『先輩こそくそ連呼すんな』


あからさまにため息を吐かれたのでとりあえず足を踏んでおいた。
ふはははは!これで満足にとぶことはできまい!
しかし私もお返しとばかりに足を踏まれたので、残念ながら私も飛べない。


『というわけなんでつれてってください』
「はぁ?」
『向日先輩にしか頼めないんです』
「お、おう……」
『単純ですね』
「くそくそ!もうなんなんだよお前!」


というわけでそんな単純な向日先輩を呼び出して、この真夜中の学校に一緒に潜入することができた。
いや?そんな?怖いとか?まさか怖いとか?そんなんないですし?
真っ暗だし、学校怖いとか?そんなわけあるわけないですし?


「というわりには服の裾握ってんなよ」
『ははははい?な、なんの話でしょうか!?』
「ぶはぁっめっちゃどもってんじゃん!」
『ううううるさいですよおおお向日先輩まじ黙れえええ!』
「はいはい」
『なんなんですか!まじなんなんですか!向日先輩のくせにその余裕はなんなんですか!』
「くせにってなんだよ」
『だって!だって!』
「あ、お前のクラス2Aだっけ」
『そうですそうですけどおおお!』
「ちょ、まじお前落ち着けよ」


あんまひっぱるな服が伸びる、と怒られたがしかしホント無理今手離すとか無理!
手離したらなんかよくわからない未確認生物にひっぱられるかもしれないとか思ったらもうホントやばい!
だってほらなんか後ろからついてきてるもの!足音が聞こえるものおおお!


「それ響いてるだけだっつの……あーもう、ほら」
『ほ、ほら!?』
「手出せ、手」
『なんでです!?』
「あー……だから、手、握ってやるっていってんだよ!」
『ぎゃあ!どさくさにまぎれてなんなんですかきもちわるい!』
「じゃあ服離せ」
『やです!』


手首を握って服から離そうとした向日先輩の手を両手でつかんだ。
ホント向日先輩のくせに意地悪ひどい人でなし!
そう言えばでこぴんをくらった。痛い。


「ほら」
『今度はなんです!?』
「お前のクラスついたんだけど」
『あ、ホントだ』
「さっさととって来いよ」
『そ、そこにいてくださいね!?絶対ですよ!?変な脅かしとかまじいりませんからね!?そんなことしたら向日先輩のこと大嫌いどころかこの世から滅しますからね!?』
「くそくそ!なんで俺こんなこと言われなきゃなんねぇんだよ!」


と、いうわけで、何事もなく無事忘れ物を捕獲できて、ようやくこの恐ろしい夜の校舎から解放された。
帰りも向日先輩の腕にしがみつくという失態をおかしてしまったが、この怖さを前にしてやむをえなかった。
それにもうこんなもの過去だ。
終わった話だ。


「そっれにしても、お前のおびえた顔見ものだったな!」
『はぁ、向日先輩が何をおっしゃってるのかわかりかねますね』
「ふーん?しらをきるつもりかよ」
『そもそもそんな事実存在しませんし』
「向日先輩怖い〜って泣きついてきたのどこのどいつだっけ?梓月じゃん?」
『む、向日先輩のくせにうるさいです!って何笑ってるんですか!』
「いやぁ?今日来てよかったと思っただけ」


未だお腹を抱えて笑っている向日先輩をにらみ上げれば、目があってまた笑われた。
くそ……向日先輩に連絡するんじゃなかった。
宍戸先輩とか鳳くんに頼めばよかったホントのホントに。
なんで向日先輩に電話したの私バカじゃないの私。


「梓月に男前な俺を見せれたわけだし?」


そう言って、頭をぽんぽんと叩いてにっと笑った向日先輩に思わずときめいたとかそんなことがあるはずがないので、とりあえず足を踏んでおいた。

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