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3月17日、そう、今日はこの学校の誰もが知る、忍足謙也くんの誕生日である。
ホワイトデーが終わったというのに、いまだ学校内はそわそわとしている。
それもそのはず、ホワイトデーに謙也くんから誰も本命を受け取っていないという噂が広がったからだ。
バレンタインデーにたくさんの本命チョコを受け取ったわけで、もちろんお返しをしていたみたいだけれど。


『ホントに誰にも本命あげてないの?』
「んー?ああ、せや、やってない」
『そっかぁ、私も義理だったもんなぁ』


本人に聞いてやってないと言われれば、やはり噂は本当だったんだなぁ。
これは女子にとって、喜ばしいっちゃ喜ばしいけれど、喜ばしくないっちゃ喜ばしくない。
つまり、誰も意中としていないってことだ。
アウトオブ眼中=自分という公式が謙也くんを想う乙女たちにガツンと突きつけられるわけである。
かくいう私もその一人であるわけで、ちょっとちくりと胸が痛い。
もう一度、本命いないの?と聞けば、おらんこともないけどおらん、とか言われて、それはいったいどっちなんですかね、謙也くん。
と、まぁ、そんなわけで、実はもう一つ噂があるのだが、それが、今日、学校中がそわそわとして乙女の雰囲気がただよっている理由である。
それは、3月17日に、謙也くんが本命の人に告白をするという噂だ。
14日に果たせなかったことを17日の誕生日に果たそうというのだ。
だが、これを本人に直接聞けるほど私は勇気はないし、浪速のスピードスターな謙也くんにしてはなんとも回りくどいやり方になるので、この噂は私はあまり信じていない。
だからといって、期待していないわけでもない。
やっぱり私はこの周りの乙女の雰囲気にあてられてるんだろう。


「なー梓月ー」
『ん?』
「えーっと、まぁ、なんちゅーか」
『何?』
「えええええっと……」


急にどもりだした謙也くん。
どうにも様子がおかしい。
なんていうか、こんなもじもじとした謙也くんはあまり見たことがない。
なおも要件を言わない謙也くんに首を傾げると、謙也くんの顔が一気に真っ赤になった。
え、意味わからん。


「あー……あー!せや、ほら!俺!今日!誕生日!」
『あ、うん、おめでとう』
「ありがとう……ってそうやなくて……いや、あっとるけど!」
『うん?』
「あー……その、自分、誕生日プレゼントもっとらんのかっちゅー話や」
『へっ』
「へって……お前まさか、ほんまに誕生日プレゼント……」
『ああああああ!!!!ご、ごめん、すっかり頭からプレゼントっていう概念消えてた!』
「えええええー!」
『うわぁうわぁ……ごめん、私バカだ』


本当にバカだ。
好きな人の誕生日に誕生日プレゼントという概念を忘れるバカがどこにいる、ここにいたよ。
なにしてんの私、ホントどういうことなの私。
噂を意識しすぎて、すっかり頭の中から消えていたなんて。
そんなのバカすぎる……自分にあきれた、こんなのってない。


「って、梓月何泣いてんねん!」
『だ、だって……』
「あわわわ!お、俺、泣かせるつもりなんてなかったんや!」
『ご、ごめん……』
「謝って欲しいわけちゃうねん……あーもう!」


がしがしっと謙也くんは頭をかいた後、急に私の手首をつかんでひっぱった。
と思ったのもつかの間、私の目の前には何故か学ラン、そして、謙也くんの腕の中にいた。
いきなりの行動に私は頭が追いつかず、口をぱくぱく開けてると、謙也くんがばっと離れた。


「あ、えっと、泣き止んだか?」
『え、あ、うん?』
「はぁ……」
『でも、ごめんね、誕生日プレゼント……』
「それは、もうええねん」
『で、でも……』


謙也くんを見上げると、いまだ真っ赤な顔をしているが、何故かすっきりした表情だった。
謙也くんの中で何かが解決したような、そんな表情。


「俺、欲しいもんやっと見つけたんやけど」
『ホント!?私用意するよ!今からでもいいなら!』
「ほんまか?」
『ほんまに!』
「その言葉忘れたらあかんぞ」
『うん』


その言葉に満足げに微笑んだ謙也くんは、何故かもう一度私を抱き寄せた。
あまりの行動に、心臓が爆発しそうな私は茫然とするしかなかったが、その後に、ささやかれる一言によって、天界に召されてしまうかと思った。


(お前が欲しいとかどこの漫画の世界かと)
(だけどその言葉におちたのはまぎれもないお前やろ)
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