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「梓月」
『ん?どうしたの』
「いや……」


放課後、オレンジ色に染まる教室で、ただなんとなくぼうっと座っていたら、ふいに真田に声をかけられた。
だが、いつもの真田らしくない。
常にまっすぐ前を見据えている真田の瞳がかすかに、ゆらゆらと揺らいでいるのだ。
なおかつ、なんとも歯切れの悪い答え。
どうかしたんだろうか?


『真田……って、えっ!?』


一瞬だった。
私はいつの間にか後ろから真田に抱きしめられていた。
その力はあまりにも強く、痛い。


『真田?』
「お前は……」
『え?』
「お前は俺を置いていくのか」


真田はなんの話をしているのだろう。
私が真田を置いていく?どこに?何故?
真田が言わんとしていることがわからない。


『何言ってるの、真田?』
「……いや、すまない、忘れてくれ」


真田は私から離れて、うつむいた。
深くかぶった帽子でより今の真田の表情がわからない。
でも微かに、必死に隠しているみたいだが、確かに真田は震えていた。


『大丈夫だよ』
「梓月?」
『私は、真田を置いていったりなんかしない』
「……!」
『だから大丈夫だよ』


そう言って、真田の手を握って、自分の頬にぺたりとつける。
真田の手は大きくて、あたたかいね。
それはきっと人と柄も表していると思う。
なにもかも包んでくれる真田に私達は頼りきってばっかだ。
だけど、真田は?真田はそんな頼れる人が近くにいるんだろうか。
どうしても弱音を吐きたいとき、つらくてつらくてどうしようもない時、彼はいったい誰を頼りにしているんだろうか。
真田のことだから、一人抱え込んで、我慢してるに違いない。
頼ってくれてもいいのに、そう悔しく思うけれど、きっとそれを彼は彼自身を許さないんだろう。


『ねぇ、真田?』
「なんだ」
『このまま……』
「?」
『キスでもしてみる?』
「なっ、ばっ、たたたたたるんどる!!」


ぼんっと一気に真っ赤に染まった真田の顔を見て、私はお腹を抱えて笑った。
女子がそんなことを恥ずかしげもなく言うのなどけしからん、なんて怒られたけれど。
こんなことでしか真田の苦しみを忘れさせることができなくてごめんね。
それもたった一瞬、一瞬しか。
ふがいない自分を呪った。
そして、もっと成長して、真田を支えれる人に早くならなくては、と心の中で誓う。
真田が安心して、背中を預けれるように、預けてくれるように。
ちくりちくりと痛む胸を抑えて、笑顔で真田の手をとった。


『ねぇ、真田、今日は一緒に帰ろうか』
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