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『じっろーくん!』
「……」
『ジローくん?』
「……」
『ジローくんってば!』
「……ぐぅ」


聞こえてきた寝息にぐったりと項垂れると、なんだか起こす気力もなくなった。
跡部ごめん、私にはこの任務果たせそうにないや。
そんなことをつぶやいて、私はジローくんのそばに腰を下ろした。
手入れがあまり行き届いてない草が、逆にクッションになってくれているみたいで、寝心地には問題なさそうだけれど。
まだ、肌寒い季節だし、風邪をひかないかが心配だ。


『あーあ、それにしても……』


ふわふわきらきらな髪の毛からはすやすやと気持ちよく眠るジローくんの顔がのぞいている。
うっかり、どこかの眠り姫が迷い込んできてしまったのかと思いそうになる。


『眠り姫、かぁ』


そっと伸ばした髪の毛は想像以上にふわふわして、触っていると心地いい。
この人に、キスをしたらどうなるんだろう?
物語の世界みたいに、目を覚ましてくれるだろうか。
そりゃあ、イケメン王子には程遠いけれど。
顔にかかった髪の毛を上げて、私は触れるように、ジローくんのほっぺたに口づけを落とした。


『って、えっ、あれっ』


おかしい、これはおかしい。
ジローくんは確かに寝ていたはずだ。
だというのに、今目の前にいるジローくんは耳まで真っ赤で、さらに言うとぱっちりと目があいている。
口をぱくぱくと動かしていると、起き上がったジローくんと目があった。


「てん」
『えっと、あの、その』
「てん……」
『ごごごごごめんっ』
「なんで、なんで……謝るC」
『だ、だって、ジローくん嫌だったんじゃないかって!』
「あーあ……まさかてんに先越されるとか思ってなかったC〜」
『ど、どういうこと!?』
「てんとのキスは俺からするって決めてたのに」
『えっ』
「だから、おとなしく、俺からされなよ、てん」


にっこりと笑んだジローくんの、予想外の激しいキスに失神するまであと15秒。
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