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「先輩、昨日の男の人誰ですか?」


放課後、部室のドアを開けると、そこには2年の鳳くんがにっこりと笑んで私を迎えた。
その笑みにぞっとして、逃げようと閉まりかけたドアに手をかけると、どうして逃げようとするんですか、なんて言われて静かにドアは閉まってしまった。
私と鳳くんの間に随分と長い沈黙があったのち、鳳くんの口からぽつりと出たのは冒頭の台詞だった。


「てん先輩、答えて下さい」
『お、鳳くん?』


小さい舌打ちとともに壁に手をぬいつけられた。
背中への衝撃に顔をゆがめると、鳳くんは苦しそうに笑う。


「先輩、先輩は俺のこと嫌いになったんですか」
『何を、』
「じゃあ、昨日のはなんなんですか!他の男に!あんなに楽しそうに!笑う先輩なんかっ……俺、見たくなかったっすよ……」
『あれは、ちが、』
「何が違うんですか!?俺、てん先輩のことめちゃくちゃ大好きです、愛してます!でも、俺以外と仲良くする先輩なんて嫌いです、大嫌いだ!」
『鳳くん……』
「もう、我慢できないんです、俺」


顔の横で握られたこぶしに力が入る。
息づかいがわかるほどに、ぐっと近づいた顔を見上げると、苦しそうに涙を流す鳳くんがいた。
気づいていないわけじゃなかった。
鳳くんが私に好意を向けていること。
でも、初めて向けられた友達以上の好意に私は不安で怖くて、見ていないふりをしていた。
不安で怖くてしかたないのは私だけじゃなくって、鳳くんも同じだということを気づいていながら。
好意を無視されることがどんなにつらいことなのかも知りながら。


『ごめん、ごめんね、鳳くん』
「……そんな言葉が聞きたかったわけじゃないんです」
『ごめん、ごめんなさい……っ』
「俺は、ただ、あなたから、愛されている証だけが、欲しかっただけなんです……っ!」


力なくだらりともたれかかってきた鳳くんはそのまま私の肩に顔を埋めた。
ぎこちなく背中に手をまわすと、鳳くんは泣いた。
鳳くんって、こんなに大きかったんだ。
こうやって、抱きしめられてやっと、彼の優しさに、大きさに支えられてきたことを思い知らされた。
とめどない涙を流しながら、私は鳳くんに触れるだけのキスをした。
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