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「な、なぁ、てん」


そう声掛けて、手に握ったブツを俺は固く握りしめる。
どくどくと波打つ鼓動は、てんがこちらを振り向く事でよりいっそう高鳴りを増した。
ああ、ホント今日もかわいいくそくそ!


『何、向日』


そう言って、少し首を傾げたてんはもう表しようがないほどにかわいすぎて、意識がぶっとびそうだ。
そんな自分を抑えつけて、必死な覚悟で手に握っていたブツをてんの目の前に出した。
これだけは、これだけはやらなければならないのだ。


「ネクタイ結んでくんね?」
『……はぁ?』
「くそくそ!めっちゃ嫌そうな顔された!」
『いや、したくもなるわ。何で急にそんなこと言いだすの、自分でできるでしょ?』
「や、それは、そうなんだけどよ」
『じゃあなんで私がわざわざしなくちゃいけないの』
「それはなんていうか……ああっもうっ!はやく結んでみそ!!」
『えええ』
「お、俺が結べって言ってるんだから結べよ!てんのくせにくそくそ!」
『なんなの……それが人にものを頼む人の態度なの』


その言葉にうっとつまると、てんは、はぁと息を吐いた。
またやってしまった。
好きな子にはなんとやら、どうしても素直になれない。
そんな自分が悔しくてしょうがない。
ぐっと唇を噛むと、てんは苦笑した。


『仕方ないなぁ……今日だけだよー?』
「えっ、まじで!?」
『二度はないよ』
「お、おう……」
『貸してみ』
「ん」
『うーん……案外難しいもんだね』
「そ、そう?」
『なんか、人にしてあげるってのも緊張するし』


そう言って、てんは恥ずかしそうに目を伏せた。
くそくそかわいすぎだろ!
自分より少し背の低いてんを見下ろすと、長い睫毛や、つむじや、透き通るような肌……全てが至近距離で見える。
ほのかに香るシャンプーの甘い匂いがたまらない。
もうなにもかも愛おしすぎて、気付かないうちに俺はてんの額に唇を触れさせていた。
ぶわっと彼女の顔は真っ赤に染まって、それを見つめる俺の顔もきっと真っ赤で。
口をぱくぱく開けて俺はその場から逃げだした。
なにしてんの俺!なにしてんだよくそくそ!
勝手に動いた身体がさらにてんに触れたいと思う前に飛び出して正解だった。
もう、好きが、愛してるが、止まらない。


『む、向日!』


急に聞こえた大声に驚いて、振り返ると、さっき飛び出した教室からてんも飛び出してきたところだった。
そして、いまだに彼女の顔は真っ赤だ。


『さっきの、さっきの言葉は取り消す!』
「!?」
『これからずっと、向日のネクタイ結んであげるから!』


彼女の言葉によりいっそう熱くなった身体で、俺はまたその場から逃げ出した。
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