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「その跡は、なんだ」


放課後、誰もいない教室で一人、彼の部活が終わるのを待つ。図書室で借りた本を読んでいると、後ろのドアからそっと入ってくる気配がする。
柳くんだ。
振り向くより前に、私の目の前に立った彼は私を見て微笑んだ。この一瞬のために、私は残っているといっても過言じゃないのかもしれない。なんて思いながら、本を閉じて、さぁ帰ろうと立ち上がろうとすれば、机の上に置いていた手に彼は自分の手を重ね、そしてそれに応える前に、手の甲に点々とある赤い跡をそっとなぞられた。ひりひりと痛むその跡はなぞられたことによって、再び熱をもちそうになる。


「想い人にでもつけられたか」


にやり、と笑った気がしたのに、次の瞬間にはいつもの飄々とした顔。からかわれているんだな、となんとなく思うけども、その表情からは全く窺えなくなってしまう。


『想い人って結局柳くんじゃない』
「そうか、梓月は俺を想っていてくれているのか」
『もう、またそういうことを言う』


演技がかった驚きの声に、私は頬を膨らませ柳くんの手を軽く叩いた。ひどいことをする、と言いながら彼の表情は変わらない。


「だが、バイトとはいえこんなに火傷をする方がひどいな」
『気づいてたの?』
「俺を誰だと思っている」
『データマン柳蓮二』
「である前に、俺はお前の恋人だろう」
『もう』
「またそういうことを言う、とお前は言う」


お前が照れるときに必ず言う、お前の癖だ。そう言いながら柳くんは再び手の甲の跡をなぞる。一応気を付けているつもりなんだけれど、厨房にいては自然と火傷してしまうもの。仕方ないと自分は半分あきらめているのに、心配しれくれる彼が愛おしいし、なんだかくすぐったい。


『心配してくれてありがとう』
「当たり前だ」
『嬉しい』


私だって知ってるの。柳くんが照れている時にする癖。彼を想い、彼に想われる私だけのとっておきの秘密だから内緒だけれど、ね?
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