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『今日、雪が降るんだって』


隣の席でまどろんでいる千歳にそう言えば、目をかっと開いて私を食い入るように見つめてきた。予想以上の反応にびっくりして私は思わず椅子から転げ落ちそうになった。


「雪……雪降るったい……そかそかそれはよか」
『おいおいこらこら帰る準備をするんじゃない』
「だって……!雪ばい!?練習できんし!」
『室内練習できるでしょう』
「……」


荷物をまとめる手を止めた千歳はがっくりとうなだれた。大事な大会を控えている四天宝寺男子テニス部は今猛練習中で、なかなかに大変なメニューをこなしているようで、最近疲れた顔をした部員によく会う。この隣の席の千歳も例外ではなく、いつも以上に居眠りが多いし、いつも以上にのたのたと行動する。大変そうだなぁ、と思いつつ千歳を見ると、あの大きな体を小さくして椅子の上でうずくまっていた。


「……にしてもどおりで寒かー思っとった」
『うん、私もこの寒さは久しぶりかなぁ』


西の空にはどんよりとした雲がうかんでいて、そろそろかな、と思った。きっと放課後に入るタイミングで降り出しそうだ。よかった折り畳み傘を持ってきて。


「あ」
『どうした?』
「傘もマフラーも忘れた」
『……バカ?』
「関西人にバカはいかんばい」
『関西人じゃないじゃん千歳』


重たいため息を吐いた千歳は机につっぷした。きっと練習が終わって帰る時にはふぶいてそうだ。周りには部員がいるから大丈夫だろうとは思うけれど。


『はい、これ』
「ん?」
『私のマフラーと折り畳み傘。使いなよ』
「え、でもてんは?」
『家近いし。それに私が帰る頃だったらそこまで降ってないだろうし』
「……女の子が体を冷やすのはいかん」
『気持ちだけ受け取る。私結構着込んでるから平気』
「あ、じゃあ、一緒に帰るっていうのは」
『白石にいい加減怒られるよ』


むぅ、と唇を尖らせた千歳はまだ納得していないという顔をしている。そんな千歳のおでこにでこぴんをくらわして、私は千歳の前に立った。


『大事な大会を前に倒れられて困るのは私なの』
「へ」
『千歳のかっこいい姿見せてくれるんでしょう?』


きょとんとしていた千歳の顔が一瞬で赤く染まった。
こんな顔もするんだ。
少し驚きつつまじまじと見つめていたら、顔を慌てて隠しながら、口をぱくぱくとさせる。なんか、見たこともない千歳がかわいく見えてきた。もっと見たいな。


「え、え!?なんで!?てん見に来ると!?え!?」
『来ちゃいけない?』
「ち、違う!来てよか!」
『それならよかった』
「え、なんで?なんで来ると?」
『インフルで倒れたマネージャーの代わり頼まれたの』
「え、あ……ああ!なんだ……そういうことったい」
『まぁ、それもあるけど』
「あるけど?」
『ただ単純に千歳のかっこいいとこ見たかっただけ』


そう言って、私は千歳にたんぽぽ色の手編みのマフラーと折り畳み傘を差し出す。今にも爆発しそうなほど真っ赤になってしまった千歳に、してやったりとほくそ笑んだ。
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