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バイト終わりの駅までの道、ばったりと出会った財前は私に気付くとヘッドフォンを外し、今から飲みに行くで、と唐突に言い出した。確か財前も今日は遅くまでバイトだって聞いてたけど、わざわざここまで迎えに来てくれたというのか。
飲むために。もう一度言うけど、飲むために。
それからひとっこともしゃべらなくなった財前の後ろについていくと、そこはこじんまりとした居酒屋で、慣れていると言わんばかりに店奥に進んでいき、どっかりと腰を下ろす。それと同時にお酒を頼んだ財前は、その勢いは止まらず次々とお酒を注文し始め、私自身はというと注文するのも忘れて財前の飲みっぷりを唖然と見ていた。


「なんやてん先輩、飲まんのですか」
『え、あー……なんか財前見てたら飲まなくてもいっかなぁって』
「なんやそれ。俺とは飲めんっちゅーことっすか」
『なんでそうなんのよ……』
「もういいっすわ先輩なんか知らん、あ、次梅酒ロックで」


あれ、もしかしてこいつ酔ってた?と気づいたのはそれからだいぶ経った後で、すでに財前の目はすわっていた。ジョッキを持ったまましばらく突っ伏していた財前は、急に顔を上げると私の目をじぃっと見てきた。その目は酒のせいなのかなんなのか、ちょっぴり潤んでいる。私はようやく財前の酒を飲む手が止まったとほっと胸をなで下ろしたが、財前はジョッキを大きな音を立てておいて、ずずいっと私の方へと前のめった。


『ちょ、財前顔近い。ちょっと酒臭い』
「……先輩はいつもそうっすわ」
『何が』
「そうやっていっつもいーっつも俺を避けてますやん」
『避けてないし』
「こないだ告白してからやけによそよそしいやないっすか」
『それは……』
「ほら心あたりあるやん」


そうなのだ。つい先日、サークルの飲み会で隣同士になった財前と話し込んでるうちに、いつの間にか財前が私を口説いているとう流れになり、つきおうてくださいと何度か頼まれた。でもただの酔った勢いだったのだろうと思って、うやむやにしてきたのだけれど。そういやあの時は今みたいにガバガバ飲んでたわけじゃなかったし、わりとシラフだったのか、と考えれば自然と恥ずかしくなって避ける形にいつの間にかなっていたかもしれないということは確かに認めざるをえない。


「俺、先輩のことめっちゃ好きやねん」
『そう……』
「……なんで、なんでなんも言うてくれんのですか?先輩は俺のこと嫌いなん?嫌いならはっきり言え」
『ざ、財前、ちょっと落ち着いて』
「落ち着く?めちゃくちゃ落ち着いてますやん」
『ど、どこが!』
「そないなことはもうええんです、どうでも。それよりはよ返事ください」


ちょっとお手洗いに、と席を立とうとすれば、ここにトイレあらへんっすわなんて真顔で言って、私の腕を掴んだ。何それ笑えない。
財前の細くて綺麗な指が腕に絡まって、赤い跡を残す。それを見た財前は、目を細めてうっすらと笑った。


「ね、てん先輩はもうどこにも逃げられへんっすわ」
『財前……』
「先輩、愛しとる」
『……』
「好き、大好き、愛しとる」
『……それは、飲んでない時に言ってほしかったな』


ちらりと財前を見れば、先ほどと違ってポカンとした間抜けな財前がいて、その顔は真っ赤に染まっていた。私の腕を掴んでる手と逆の手で口元を抑えた財前はふいと顔を背けた。


「そんなんシラフじゃ無理やから飲んどるのに」


ぽつりと呟いた財前に、私はなんとも幸せな気持ちになってしまった。
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