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学校帰りの商店街に、おいしいコロッケを売っている店がある。
そこは昔ながらのこじんまりとした精肉店で、小さいころからよく母親と通っていた記憶はまだ新しい。家に向かう帰り道、あげたてのコロッケを一つだけ母親に買ってもらって、口の中に火傷をしながらよく食べていた。


それは中学校にあがった今も変わらず(母親に買ってもらうことだけはもうない)、学校帰りにいつもこの店に寄る。私の学校は私立中だったが、帰りに買い食いするのは本当ならば禁止だった。だが、私はこの店でコロッケを買って帰るという行為が最早毎日の習慣のようになっていたため、校則を無視して、店のおばさんにあいさつをする。


『おばさん、今日のコロッケは?』
「野菜コロッケとかぼちゃコロッケだよ」
『んーあー……じゃあかぼちゃコロッケで』


お金を払って、ショーケースの上にコロッケを置いたまま、真っ白な制服につかないように、鞄に忍ばせていた真っ黒のパーカーを羽織る。
それにしてもなんでこの学校の制服白いんだろう。こんなんじゃカレーうどん食えやしないじゃないか。なんて、何度親にも友人にも愚痴をこぼしたかもわからない。まぁ、愚痴をこぼしたところでなんにもならないことはわかっていて、ただのその場の会話つなぎだ。


「てんちゃん、前々から思ってたんだけど、山吹中よね?」
『うん、そうだよ』
「やっぱり?ここによく来る子も同じような制服だなって思ったのよね。その子も山吹中って言ってたし」
『ふうん』


私はマフラーを巻きなおして、コロッケを手に取る。まだあったかいそれは、体の芯からあっためてくれて、口から漏れ出るあたたかい息を外気が真っ白に染めた。
さぁ、帰ろう。今日の晩御飯はなんだろうか。そう思って、足を家の方向に向けたとき、おばちゃんこんにちは、なんて言う声が聞こえて、私は思わず振り返った。先ほどまで私と喋っていたおばさんは、その男の子をにこやかに迎え、私に目配せした。きっとこの子がさっきの話の子なんだろう。


「おばちゃん今日のコロッケはなに?」
「野菜コロッケとかぼちゃコロッケ」
「じゃあ、かぼちゃコロッケにしようかな」


私と同じような会話をし、私と同じものを頼んだ彼は、本当に嬉しそうな顔をしながらおばさんからコロッケを受け取った。
ふうん。私以外にもここのコロッケ好きな山吹中生徒いるんだ。
私立ってこともあって、ちょっと気取った雰囲気も見られるだけに少しだけ驚いた。と、同時に理解者がいて嬉しくなった私は、彼の方へと足を向けて、近づいた。


『山吹って買い食い禁止だよね』
「えっ」
『君、名前は?あ、あと学年』
「え、えっと俺南。1年」
『ふうん、一緒か』
「君も山吹?」
『じゃなかったらこんな真っ白な制服着てないでしょ?』
「……それもそうか」


じゃあ、おあいこじゃん、なんて言われて、私食べてないしと嘘をつけば、なんでかあっさりとばれてしまった。パーカーのポケットに手をつっこむと、コロッケの紙袋がかさりと音を立てた。


「そっか、おばちゃんが言ってたのって君だったんだ」
『君もおばさんに聞いたの?』
「ってことは君も?」
『今さっき』
「俺結構前から聞いてた」


結構前から、か。
おばさんの喋るタイミングわからないな。私今だったのに、彼は結構前とか。まぁ、いいか。どうせまた学校でもここでも彼に会えるわけだし、スタート地点は違くてもこれから知っていけばいいわけだし。


「あ、そういえば名前」
『私は梓月てん』
「そっか、よろしく梓月さん」
『こちらこそよろしく、南くん』

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