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『昨日人類が滅亡したらしいよ』
私はたまたま隣に並んだ越前にそう言うと、越前はため息を吐くように、へぇ、と興味なさそうに呟いた。私もまたそれほど興味もないことで、ぱらぱらと降り出した雨を防ぐべく、手に持っていた水玉の傘を開いた。
「ねぇ」
『何』
「いれてよ。傘忘れた」
うんともすんとも返事をする間もなく、越前はするりと自然に私の傘の中に入ってきて、私の歩幅そっくりそのまま合わせる。
「で?本当に人類滅亡したの?」
『私と越前がこの場にいる時点でしてないでしょ』
「わかんないよ?これ天国かもしれないじゃん」
『天国とか』
あまりにもいつも通りすぎて天国な気は全然しないけれど、あの越前から天国なんて言葉をまさか聞くと思っていなかったから本当に私は天に召されてしまったのかもしれない。ほらなんか、越前の頭の上に天使の輪があるような気もするし。
「あれ、雨あがったんじゃない?」
『ホントだ、さっきまでどんより曇ってたくせに』
「何、雨がよかったの?」
『うーん』
「なんか歯切れ悪いじゃん」
雨がよかったってわけじゃない。寧ろ嫌なくらいなんだけれど。でもこうやって傘の中に二人でいると、本当にこの世界のあらゆるものが消滅して、私たち二人だけ取り残されたような錯覚がした。傘の下には二人だけの世界が広がっていて、何一つとして怖いものなんてないと思えた。そして、もっとこの時間が続けばいいとさえ思った。
本当にもし昨日、私たち以外の人類が滅亡していたならば。
「まぁ、俺は雨があがってちょっと残念だけどね」
ずっと二人だけで生きていられたのかもしれない。