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「熱があるってなんで言ってくれなかったの?」


ああ、やらかした。そう思った。
きっと昨日お風呂場で寝てしまったせいだっていうのは自分が一番わかってる。ただでさえ精神状態不安定なのに、それに追い打ちをかけるように風邪をひいて、このままいけば自分の身でも簡単に滅ぼしてしまいそうだ。頭がガンガンと痛くて、さっきからキヨの声がいつも以上にひびいて聞こえて私は思わず両耳を塞いだ。


『うるさいうるさい』
「うるさいって……ほら、保健室行くよ?」


ぐったりと机につっぷしていると、私のこの体調に気付いたらしいキヨが女の子との会話を中断してきてくれたのはいいが、それはそれでイライラしてしょうがない。ホント、なんでこの人はいつもこうなんだろう。


『保健室なんて行かない』


そうはっきり言って、キヨの手をはらいのければ、大きなため息を吐かれた。吐きたいのはこっちだっつの。それを、幸せが逃げるって言ってさえぎるのはどこのどいつだ。


「女の子の我儘に付き合うのが男の役目だけど今度ばかりはだーめ」


なんていつもの調子で言ってくるから、さらにイライラは募るばかりで、顔も見たくなくなった私は上げていた顔を再び伏せた。そっと頭に重みが加わって、キヨが撫でてくれているのがわかった。落ち着くのがまた腹立たしい。


『……なんで行かなきゃなの』
「なんでもなにもこんなに熱あるんだから」
『熱なんてないし』
「またそんなバレバレな嘘をつく」
『嘘じゃないし』


ただでさえ喉も焼けているように熱くて、声も出しにくいのに、こうやってキヨと喋っていれば、かすれ具合もひどくなっていく。私は何か飲み物でも買ってこようと、席を立った。がしかし、すぐさまふらついて、机に手をついた。


「あーもうほら!フラフラしてるじゃん!俺に捕まって」
『もうほっといてよ』
「ほっとけないって」
『私なんかほっといて他の女の子口説いとけばいいでしょ!』


ああ、言ってしまった。絶対言うもんかって決めてたのに。こんなこと言ったら、本当に……。


「……もしかしてそれが理由?」
『うるさい』
「妬いてたの?」


嫉妬深い女なんて嫌だって、自分でも思っているのに、でも心の中ではいつだって嫉妬してる。態度にあまり出さないようにしてても、こうやってぼろがでる。恥ずかしい。絶対嫌な女だって思われた。最悪だ。ぐらりと傾いた体に何も反応できないでいると、そっと、まるで壊れ物でも扱うようにキヨが支えてくれた。体を預けて、胸に耳をあてているとキヨの鼓動はうるさいほどに波打っていて。


「てんちゃんのいない間に他の女の子のところに行くような男って思われてる?」
『だって本当のことじゃない』
「てんちゃんは馬鹿だなぁ」
『なっ』
「やきもちをやく女の子を見るのは大好きだけど、俺はなにより女の子の悲しむ顔が一番見たくないんだよ」


そう言って笑ったキヨは私をそのまま抱きしめた。やっぱり熱い、なんて言いながら私の首筋に顔を埋めてきたキヨに力ない手で抵抗すれば、じゃあ続きは保健室で、なんて悪戯っぽく笑われた。あーあ、適わないなぁ。
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