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正直、男の好みにあわせる女子って本当に萎える。
仁王くん確か髪の毛長い子好きだったよね?なーんて甘えた声で俺にすり寄る。そんなの適当に言った言葉なのに真に受けて、相手の機嫌をとってるんじゃろうけど、俺にとっては逆効果。っていうかどこ情報じゃ。
おもしろみもなんともない。
外れじゃのう。なんて呟いて俺は、未だにぎわうカラオケボックスから出た。
あーあうるさいうるさい。なんでカラオケなんじゃ。今日はカラオケなんて気分じゃないし、っていうかそもそも人数あわせできただけじゃし。もてもてブンちゃんに無理矢理ひっぱられてこなかったらこんなところ来るわけないじゃろ。


「帰るかのう」
『逃げるんだ』


突然聞こえた声にまわりを見渡せば、後ろにさっきの場にいたらしき女子がいた。長い髪を揺らしながら俺の目の前に立ったその女子は、もう一度、逃げるんだ、と言った。逃げる?おかしなことを言う。俺はただ帰るだけじゃ。


「帰るだけじゃけど」
『だからそれを逃げるって言ってるんだよ』
「……意味がわからん」


挑戦的な笑みを向けて来た女子に背を向けて、さっさと出て行こうとすると、ぐいっと後ろに体が傾いた。まだ話は終わってないんだけど?なんて言って俺の髪を尚もひっぱる。なにこの女。痛いんじゃけど。


『あの子、私の親友なんだよね』
「あの子?」
『あなたの隣に座っていたでしょう?』
「ああ……」


あの女か。他のやつとなんら変わらん女。男の機嫌をとるだけの女。それがどうした?というように見れば、おもいっきり眉を寄せられた。


『あの子が……どんだけあなたのために頑張ったか、一生懸命あなたの理想に添えるようにってこれまでやってきたか……』
「どうでもいいのう」
『……きっとあなたには一生人の気持ちなんてわからないでしょうね』
「あーわからんわからん」
『そんなんだから、本当の気持ちに向き合えないって言ってんのよ。一生偽りのまま。逃げてばっかり。くだらない』


なんじゃこいつ。人のこと好き勝手言って。イライラする。なんで初対面のやつにここまで言われなきゃいかんの。俺の何を知ってるんじゃ。ふざけんな。
それ以上に、この女のまっすぐな目から目がそらせない俺に、一番腹が立つ。こんなわけがわからない女、相手なんかしないでさっさと帰ればいいのに。ぐさりとささった言葉が俺をその場にくいとめる。何も言えなくて、口からひゅうと息がもれた。なんじゃこれ。柄じゃないのう。
逃げてる?そんなの意識しないようにすることに慣れてしまった。くだらない?ああ、そんなものとっくの昔に知っていたのに。
だって、本当の気持ちに触れるなんてそんな怖いこと、お前さんにはできるんか?
ふいに口元を釣り上げた目の前の女は、自分の髪を掴んだ。


『……髪、長い子が好きなんだっけ?』
「!」
『そんなものくそくらえ』


一瞬じゃった。
この女の手にはいつの間にかはさみが握られていて、今さっきまで揺れていた長い髪を肩上までざっくりと切っていた。制服についた髪の毛をふり払うわけでもなく、そのまま俺の横を通り過ぎて、店の外に出ていく。は。何してるんじゃこいつ。乾いた口から洩れるのはただの笑い声で、その声は異常に震えていた。ああ、怖い。触れてしまった。真っ直ぐな言葉に。本当の気持ちに。俺のくだらない偽りを全部たちきったこの女に、震えがとまらなくなった。
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